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ハーレム

鷹の気持ち(何だか様子がおかしいんだが)

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新暦元年十一月二十日



ちからはるかの赤ん坊はきたると名付けた。女の子だ。

きたるが生まれて、俺達の<群れ>の雰囲気がまた変わった気がした。

新しい仲間が加わったというだけでなく、何となくほっこりとした空気が流れて―――――はいなかった。

特に、じんふくの目がヤバい。はるかに抱かれて乳を飲むきたるのことを、明らかにヤバい目で見ている。あれは、獲物を狙う目だ。

無理もないか。

ちからはるかは単純に俺達の群れの一員というよりは、俺達の住処に住み着いてるだけの余所者という見方もできてしまうからな。じんふくにとっては赤ん坊など絶好の獲物にも見えるだろう。ひそかも雑食だから場合によっては危ないかもしれない。

が、そんなことを許す訳にもいかない。

「襲うなよ。あれはお前らの餌じゃない」

俺もそう釘を刺すし、当然、エレクシアやセシリアCQ202が常時監視しているから手の出しようもないだろうが。何より、三人にはちゃんと食事を与えてる。飢えて見境を無くすことはない筈だ。まあそれでも油断はできないが。

ただ意外だったのが、それにようが加わっていないことだった。エレクシアやセシリアCQ202や俺まで虎視眈々と狙ってた彼女が、赤ん坊にはあまり関心を抱いてる風ではなかったのだ。

いや、関心そのものは抱いてるのか。時々目で追っているのは確認できたし。だがそれは、獲物として狙っているという感じではなかった。本当に可愛らしいものをつい目で追ってしまっているという感じだった。

そういう意味でも、最近、ようの様子がおかしい気がする。体調が悪いとかそういうのじゃないんだ。何と言うか、赤ん坊のことだけじゃなくて、やけに俺のことも見てる気がすると言うか。

最初は、俺と一緒にいるエレクシアのことを見てるんだと思っていた。エレクシアがようの世話をしてたからな。彼女に一番懐くのが当然だと思う。

なのに、エレクシアが俺の傍にいない時でも、こっちに視線を向けてることが多い気がするんだよな。

俺の方も視線を向けると、何度も目が合うんだ。で、そうやって目が合うと気まずそうに逸らす。で、まるで誤魔化そうとでもするかのように毛繕いを始めたりもする。

「発情していますね」

「うわっ!!」

っと、思わず体が跳ねてしまう。って、忍び寄るみたいに近付かないでくれよエレクシア。

って、発情!? ようが!?

ああでも、言われてみれば確かにそれっぽくはあるかなと思わないでもない。もっと近付けば俺も匂いで分かったりするんだが、ようはローバーの上から動こうとしないからな。

しかし、発情してるならもっとこう、積極的になったりしそうなものだが。だからその疑問を口にした。

「だが、発情してるならもっと分かりやすく行動に移さないか? 人間とは違うんだし」

そんな俺に、エレクシアが呆れたように冷めた視線を送ってくる。

「女心が分かっていませんね、マスター」

は? 女心って……

戸惑う俺に、エレクシアは続ける。

「まあそれは冗談ですが」

って、冗談かい!? セシリアCQ202はこの感じで冗談を言ったりはしないが、エレクシアのように今のメイトギアは、学習次第ではこうやって冗談を言ったりすることもある。それだけ繊細な制御が行われているということだ。まあそれはさて置いて。

「しかし発情しているのは事実だと思われます。ただ、それに対してよう自身が戸惑っている感じでしょうか。明らかに種族が違うマスターに対してそういう気持ちになっていることに、彼女自身が戸惑っているようです」

ほう…?

「明確な言葉を話さないのでそういう印象はあまりないかも知れませんが、彼女達の知能はけっこう高いのです。ですので情動についても、単純に野生動物のそれとは限りません。ひそかじんがマスターを好きになったのもそういう理由からでしょう。

野生動物においても異種族の個体に対して好意を寄せるという例はあるとされていますが、その頻度は決して高くありません。にも拘らず、ひそかに続いてじんふくがマスターを雄として認識して好意を寄せるということは、彼女達が<しゅ>というものにそれほど強く縛られておらず、かつマスターが雄であるということを認識できるだけの知能があるということを示しているのです。

確かにようはこれまで食事を与えてくれる私に懐いていましたが、それはまた別の話ですから。

恐らく、はるかの赤ん坊がきっかけになったのでしょう。それが、ようの雌としての本能を揺さぶったものと思われます」

…なるほどな。言われてみればそうかもしれない。よう達には、種が違う俺のことをそういう対象として捉えることができるだけの素地が元々備わってるということか。人間にも、人間以外のものに強い恋愛感情を抱くのがいるしな。

俺だって……

と、それはまたさて置き、この上、ようまでそういう目で俺を見るということは、気遣わなきゃいけない相手が増えてしまうということなんだろうなあ。

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