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ハーレム

ワニ少女(かと思いきや)

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「先程の生物と同種のようですが、こちらは雄ですね」

「なに…?」

今さっき死んだワニ少女と外見上はそれほど違いがなかったからてっきりこちらもそうだと思ったが、ワニ少女じゃなくてワニ少年だったか。にしても、体つきもそんなに変わらなくて、パッと見だと女の子にも見えるな。とは言え、実際に抑え付けてるエレクシアがそう言うのなら、雄なんだろう。

ひそかの仲間には雄っぽいのもいたし、動物なんだから両方いても当然だが改めて見るとそうなんだなと実感した。

だが、どうしてこのワニ少年はこんなことを?

俺がそんなことを考えてるとエレクシアがそれを察したのか応えてきた。

「どうやら、私がこちらの死亡した個体を襲っていると思ったようですね。それを助けようとしたものと思われます」

襲われている仲間を助けようという行動は、割合は決して大きくないがたまに見られる行動だろう。特に、親子だったりパートナーだったりすると。

ということは、死んだワニ少女はこのワニ少年のパートナーだったのかもな。

「…放してやってくれ」

ワニ少女の遺体の横でエレクシアに抑え付けられているワニ少年の姿に、俺はいたたまれない気分になっていた。常に死と隣り合わせの野生の世界では、人間ほど死の意味は重くないのかもしれないが、俺は人間だ。そこまでは割り切れない。

自分を放して距離を取ったエレクシアを警戒しながら、彼は、動かなくなった少女の体をゆすった。しかし反応がないことに気付いてさらに大きくゆする。それでも動かない少女を見て、彼はその場に両手と膝をついてうなだれた。それは、明らかに少女の死を悲しんでいる姿だった。

野生の動物にも、仲間の死を悼むものはいる。彼らもそういう動物ということなのだろう。

その時、屋根からガンッという物音が響いた。まさかと思って見たが、ワニ少年の方は何も変わった様子がない。何気に河の方を見ると、鳥少女が水面を蹴って何かを掴み、ローバーの方に戻ってくるのが見えた。狩りに出ただけだったか。

エレクシアが傍に居るから襲わなかったのか、それとも、ワニ少年は獲物ではないのか。

だとしてもこのタイミングで狩りに出るとか、やはり人間のようなセンチメンタリズムとは無縁なのだなと改めて感じた。

ひそかじんは、ローバーのキャビンでそれこそ『我関せず』といった風情で寛いでいたが。

視線をワニ少年の方に戻すと、亡くなった少女の体を引きずり河へと戻っていくところだった。どうするつもりかは知らないが、もしかすると彼らなりの悼み方なのかもしれない。自分達が暮らす河へと亡骸を戻そうとしてるのだろうか。

または、食う為だったりするかもしれない。これだけ生態が違っていれば、俺達人間とは精神構造からして違ってしまっているだろう。彼が少女の亡骸をどうするのかは分からないにしても、それは彼らの問題だ。俺が口出しするべきことじゃない。

やがて完全に水中に姿を消してしまったのを見届けて、俺は運転席のシートへと戻った。エレクシアはポンプで汲み上げた水で自分の体についた泥を落とし、ポンプを荷台に戻し、タオルで体を拭いて助手席へと戻ってきた。

「いかがいたしますか?」

「……」

問い掛けるエレクシアに、俺は何とも言えない気分で口元を釣り上げてみせた。今のこの気持ちをどう表現すればいいのかよく分からなかったからだ。

冷静に考えれば、野生の動物が一匹、死んだだけだ。そんなことは気に病むほどのことでもないのは分かってる。

ただ、亡くなったワニ少女の姿が、病院で息を引き取った妹の姿と重なってしまったのも事実だった。しかも、少女の脇でうなだれる少年がまるで俺自身にも見えてしまったというのもある。

「ちょっと、時間をくれ……その間に、ひそかじんの食事を頼む……」

「承知しました」

俺の言葉に頷いたエレクシアは、再びローバーを降りて林の中へと入っていった。食料を確保する為に。



彼女が戻ってくるまでの間、俺は妹のことを思い出していた。事故で早くに両親を亡くし、俺と妹は二人だけで生きてきた。

妹には持病があって、それは今の医療技術でも完治は困難なものだった。普段の生活に支障ないほどには症状を緩和する薬もあるが、症例が少なく保険適用もまだだったから金はいくらあっても足りなかった。

借金に借金を重ね、俺の収入では、利息を払うだけで手一杯だった。そうやって追い詰められていたところで妹は他界。ようやく借金を増やさずに済むと思った俺は、妹が死んだことでホッとしてしまったりしたんだ。だが、そんな自分がまた許せなくて、霊安室でずっと泣いていたりもした。

そういう諸々が、丸ごとよみがえってしまったんだよな。

その後に、ヤバいところから借金してまでエレクシアと宇宙船を買ってしまったのも、正直、正気を失ってたせいもある気がする。ヤバいところから借りたのは、それ以前の借金の返済が滞りがちになってたこともあってブラックリスト入りしてたからだしな。

だがここでは、そんなあれこれももう関係ないんだ。

それを自分に言い聞かせて、俺は気持ちを入れ替えようとしていたのだった。

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