21 / 91
すっごくすっごく嬉しいんだ!
しおりを挟む「なに! バディだと!?」
清見村の村長、美園からの報告を受けた折守市市長、舞華は、そこまで言って言葉を失っていた。バディが発見されたとなればまさにこの世界がひっくり返るほどのことだ。扱いを誤ればパニックにもなりかねない。
なお、現在は、行政の重要な立場には殆ど女性が就いている。氷の檻に閉ざされたこの世界では外敵との戦乱などの心配がまるでなく、あくまで内部を穏やかに統率できればいいということで、女性の方が為政者に向いているという判断からそのようになっていた。
この惑星<御津志筑>に起こったことを詳しく説明するのは極めて悲痛なものだと思われるので敢えて詳しくは触れない。ただ、大変な事故により御津志筑は太陽の周りを回っていた公転軌道を外れて太陽を失い、厚さ数キロの氷と永久凍土に閉じ込められた<氷の惑星>と化してしまったことは、大きな悲劇と言えるだろう。
しかしこれは同時に、『人間同士で争っている場合ではない』という認識をもたらしたことも事実だった。そこに至るまでにどれだけの苦しみがあったのかを考えれば一概に『良かった』とは言えないものの、少なくとも今、折守市に残された人々が平穏に生きていくには役立っているのだと思われる。
ある意味では、現在の環境に適応できない者は淘汰されていったとも言えるかもしれない。
現在残されているのは、和を尊び互いに力を合わせてこの厳しい世界を生きていこうと考える者が殆どなのだ。
それでも、バディがもたらすかもしれない情報や技術は、危ういバランスで成り立っている今の社会を根本から覆す可能性さえ秘めている。その扱いには慎重を期さなければいけなかった。
さっそく、市長直轄の鑑定士兼技術者を派遣し、そのバディがどれだけのものなのかを見極めなければいけない。市長の舞華自身も己の目でそれを確認しなければと考え、コートを纏った。
「明日の公務はすべてキャンセルだ。この事態の対応に全力を傾ける!」
現在五十一歳。既に平均寿命を超えて、次の市長に責務を引き継ぎ静かに余生を送ろうと考えていたところに舞い込んだ一大事に、舞華は苦笑いしか浮かんでこなかった。
『やれやれ、まさか私の代でこんなことになるとは。平穏無事でいたかっただけなのにな』
それは、現市長の舞華に限った考えではなかっただろう。基本的にはそういう、穏やかな社会を望む者こそが長に選ばれる社会なのだ。
秘書三人を伴い、舞華は、装輪装甲車のような六輪車に乗り込み、美園達が乗ってきた履帯トラックの後をついて、千治の家へと向かった。
その頃、浅葱達は、重蔵の家で、興奮を紛らわす為に酒を酌み交わし、殆ど全員が酔い潰れて寝ていたのだった。
清見村の村長、美園からの報告を受けた折守市市長、舞華は、そこまで言って言葉を失っていた。バディが発見されたとなればまさにこの世界がひっくり返るほどのことだ。扱いを誤ればパニックにもなりかねない。
なお、現在は、行政の重要な立場には殆ど女性が就いている。氷の檻に閉ざされたこの世界では外敵との戦乱などの心配がまるでなく、あくまで内部を穏やかに統率できればいいということで、女性の方が為政者に向いているという判断からそのようになっていた。
この惑星<御津志筑>に起こったことを詳しく説明するのは極めて悲痛なものだと思われるので敢えて詳しくは触れない。ただ、大変な事故により御津志筑は太陽の周りを回っていた公転軌道を外れて太陽を失い、厚さ数キロの氷と永久凍土に閉じ込められた<氷の惑星>と化してしまったことは、大きな悲劇と言えるだろう。
しかしこれは同時に、『人間同士で争っている場合ではない』という認識をもたらしたことも事実だった。そこに至るまでにどれだけの苦しみがあったのかを考えれば一概に『良かった』とは言えないものの、少なくとも今、折守市に残された人々が平穏に生きていくには役立っているのだと思われる。
ある意味では、現在の環境に適応できない者は淘汰されていったとも言えるかもしれない。
現在残されているのは、和を尊び互いに力を合わせてこの厳しい世界を生きていこうと考える者が殆どなのだ。
それでも、バディがもたらすかもしれない情報や技術は、危ういバランスで成り立っている今の社会を根本から覆す可能性さえ秘めている。その扱いには慎重を期さなければいけなかった。
さっそく、市長直轄の鑑定士兼技術者を派遣し、そのバディがどれだけのものなのかを見極めなければいけない。市長の舞華自身も己の目でそれを確認しなければと考え、コートを纏った。
「明日の公務はすべてキャンセルだ。この事態の対応に全力を傾ける!」
現在五十一歳。既に平均寿命を超えて、次の市長に責務を引き継ぎ静かに余生を送ろうと考えていたところに舞い込んだ一大事に、舞華は苦笑いしか浮かんでこなかった。
『やれやれ、まさか私の代でこんなことになるとは。平穏無事でいたかっただけなのにな』
それは、現市長の舞華に限った考えではなかっただろう。基本的にはそういう、穏やかな社会を望む者こそが長に選ばれる社会なのだ。
秘書三人を伴い、舞華は、装輪装甲車のような六輪車に乗り込み、美園達が乗ってきた履帯トラックの後をついて、千治の家へと向かった。
その頃、浅葱達は、重蔵の家で、興奮を紛らわす為に酒を酌み交わし、殆ど全員が酔い潰れて寝ていたのだった。
0
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
白衣の下 拝啓、先生お元気ですか?その後いかがお過ごしでしょうか?
アーキテクト
恋愛
その後の先生 相変わらずの破茶滅茶ぶり、そんな先生を慕う人々、先生を愛してやまない人々とのホッコリしたエピソードの数々‥‥‥ 先生無茶振りやめてください‼️
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
脅され彼女~可愛い女子の弱みを握ったので脅して彼女にしてみたが、健気すぎて幸せにしたいと思った~
みずがめ
青春
陰キャ男子が後輩の女子の弱みを握ってしまった。彼女いない歴=年齢の彼は後輩少女に彼女になってくれとお願いする。脅迫から生まれた恋人関係ではあったが、彼女はとても健気な女の子だった。
ゲス男子×健気女子のコンプレックスにまみれた、もしかしたら純愛になるかもしれないお話。
※この作品は別サイトにも掲載しています。
※表紙イラストは、あっきコタロウさんに描いていただきました。
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
秘密多め令嬢の自由でデンジャラスな生活〜魔力0、超虚弱体質、たまに白い獣で大冒険して、溺愛されてる話
嵐華子
ファンタジー
【旧題】秘密の多い魔力0令嬢の自由ライフ。
【あらすじ】
イケメン魔術師一家の超虚弱体質養女は史上3人目の魔力0人間。
しかし本人はもちろん、通称、魔王と悪魔兄弟(義理家族達)は気にしない。
ついでに魔王と悪魔兄弟は王子達への雷撃も、国王と宰相の頭を燃やしても、凍らせても気にしない。
そんな一家はむしろ互いに愛情過多。
あてられた周りだけ食傷気味。
「でも魔力0だから魔法が使えないって誰が決めたの?」
なんて養女は言う。
今の所、魔法を使った事ないんですけどね。
ただし時々白い獣になって何かしらやらかしている模様。
僕呼びも含めて養女には色々秘密があるけど、令嬢の成長と共に少しずつ明らかになっていく。
一家の望みは表舞台に出る事なく家族でスローライフ……無理じゃないだろうか。
生活にも困らず、むしろ養女はやりたい事をやりたいように、自由に生きているだけで懐が潤いまくり、慰謝料も魔王達がガッポリ回収しては手渡すからか、懐は潤っている。
でもスローなライフは無理っぽい。
__そんなお話。
※お気に入り登録、コメント、その他色々ありがとうございます。
※他サイトでも掲載中。
※1話1600〜2000文字くらいの、下スクロールでサクサク読めるように句読点改行しています。
※主人公は溺愛されまくりですが、一部を除いて恋愛要素は今のところ無い模様。
※サブも含めてタイトルのセンスは壊滅的にありません(自分的にしっくりくるまでちょくちょく変更すると思います)。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる