ハズレガチャの空きカプセル

京衛武百十

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軌央EFJ55V

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 海美神とりとんの父親である義綱が創業した<大森モータース>は、トップメーカーと比べればそれこそ有象無象の中小企業にも等しいものだっただろう。なので、大森家自体、途轍もない資産を持っているわけでもない。
『まあ、裕福と言っていい』
 という程度の家庭だった。それでも、琴美や煌輝ふぁんたじあからすれば雲の上の存在にも等しかった。一真が勤めている<SANA>は、企業としての格は<大森モータース>に比べればずっと下の、本当に中小企業である。
 なのに、海美神からは驕った感じが本当にしない。ただただまっとうに他者を敬うことができる人間だった。だから不思議と居心地は悪くなかった。琴美にとってもそうだし、煌輝にとっても。そうして三時間ほどが過ぎ、予定していた範囲の自主勉強を終えられた。すると、
「ねえ、この後、みんなでお茶しに行かない? 紹介したいケーキ屋があるんだ!」
 海美神が言い出して、琴美と煌輝は顔を見合わせ、
「そうなんだ……?」
「別にいいけど……」
 少し戸惑いながら応える。それに海美神は満面の笑顔になって、
「よかったあ! じゃあ、パパとママに言ってくるね♡」
 と言って部屋を出て行った。

 それから五分後、琴美と煌輝は、見た目にはなんとも<昭和>を感じさせる自動車の車内にいた。義綱の愛車、
 <軌央キオウEFJ55V>
 だった。
 軌央キオウEFJ55Vは、<ランドクルーザーFJ55>をベースに、電動化をはじめ、現代での使用に(なるべく)適したファインチューンを施したカスタムカーだった。もっとも、ボディとシャーシが利用されているだけで、それ以外はほぼ新造品である。シートも現代の物に準じた厚みのあるファブリックシートに差し替えられ座り心地もベース車に比べれば向上している。法律上は<公認を受けた改造車>という扱いだ。
 運転席には義綱。助手席には真理愛。そして後席に、運転席側から海美神、琴美、煌輝の順で座っていた。
 海美神は言う。
「この車に乗るとね、それこそもうあっちこっちが『動いてる』『回ってる』『働いてる』って分かるんだ。『一生懸命走ってるんだな』ってのが分かってなんか楽しいんだよ♡」
 やっぱり満面の笑みを浮かべる彼女に、
「そうなんだ……」
「はあ……」
 琴美と煌輝は唖然としながら応える。けれど、確かに言われてみると、路面の凹凸をタイヤがしっかりと拾っているのが伝わってくるし、床下で何かがすごい勢いで回転してる気配も伝わってくる。そしてあっちでもこっちでもバタバタと何かが動いてる気配もある。リーフリジッドの板バネとシャックルが衝撃や振動を受け止めるために絶え間なく動いていることで生じているそれだった。
 自動車にはほとんど興味のない琴美や煌輝にはまったく理解はできないものの、なるほど、
『いろんな部品が働いて仕事して自動車は動いているんだ』
 というのは伝わったのだった。

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