ハズレガチャの空きカプセル

京衛武百十

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このくらいまでなら大丈夫

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 小さな交差点でも信号を守る件については、実は一真も、
「信号を律儀に守ることをバカにしてくるのとは、付き合わなくていい。そういう奴は気遣いができない人間だから」
 と、ことあるごとに言っていた。
 確かに、『たかが信号を律儀に守ったくらいでバカにしてくる』ような人間が、果たして信用できるだろうか?
 一真は、信号を守らないのがいても口出しはしない。自分にそれを注意する義理はないからだ。なのに世の中には、
『交通ルールを守ることをバカにしてくる』
 人間がいる。別に、
『あらゆる法律やルールを完璧に守れ』
 とまでは言わないものの、自分でも気付かないうちにうっかり違法なことをしていたりルールに反した行為をしてしまうことはあるものの、『交通ルールを守ることをバカにする』というのは、どういう了見なのだろうか?
 一真と琴美の両親がまさにそのタイプだった。
『法律やルールなど破るためにある』
 とでも言わんばかりの調子で、法律やルールを守ろうとする者を、
「バカな奴らw」
 と嘲笑うタイプの人間だった。そして自分達を、
 <社会の本当の仕組みを見抜いている利口な人間>
 そう考えていた。
「法律やルールを守る奴とか、家畜じゃん。家畜は利口な奴に利用されるだけなんだよw」
 などと吹聴していた。だから、傘も買ったことはないし、自転車もほとんど買ったことはないし、万引きが上手くできる自分達を『優秀』だとも考えていた。
「だから無駄金なんか使ったことねーし、搾取とかされねーんだよw」
 と豪語もしていた。
「社畜で搾取されてる奴ら、ごくろーさんw 俺達ぁおめーらと違うんだわw」
 的に、真面目に働いている者達を嘲笑ってもいた。
 一真も琴美も、そんな両親と同種の人間にはなりたくなかった。だからこそ法律もルールも、無理なく守れるものなら守ろうと思った。
 本人達の、
 <生き方の指針>
 でもあった。もっとも、それを明確にもたらしてくれたのも、結人ゆうと達だったが。
 いわゆる、
 <自分を普通だと思ってる人間>
 は、
『このくらいまでなら大丈夫』
 と思って信号無視や横断禁止の場所を渡ったりしているのだろう。
 だが、一真と琴美の両親や、結人達の<実の親>については、倫理観や遵法精神が根本的に破綻しており、<自分を普通だと思ってる人間>にとっての『このくらいまでなら大丈夫』に比べて、『このくらいまでなら大丈夫』の基準が大きくずれている。
 何しろ一真と琴美の両親にとっての『このくらいまでなら大丈夫』とは、
『コンビニなら五百円まで。でかいスーパーなら二千円までなら万引きして大丈夫』
『駅や電車の中で寄って寝てる奴が悪いんだから、そいつらの金ならいただいて大丈夫』
 というものだったのだ。

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