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笑い話にしてしまえるほど

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 結人ゆうとは言う。
「しかしつくづく、<類は友を呼ぶ>ってのはあると思うぜ。こうも見事に問題のある親を持ったのが集まるんだからな」
 すると千早ちはやは、沙奈子さなこの生姜焼きを食べながら、
「いやあ、単にそういう親が実は少なくないってだけってのもあるんじゃねーかな。私の家だって、世間じゃ<女手一つで三人の娘を力強く育ててる立派な母親がいる家庭>って評価だもんな。結局、他人は上辺しか見ねーってことだよ。確かにあの人は、看護師としちゃ優秀だよ? 職場じゃ信頼もされてる。けどさ、<母親>としちゃあロクでもないんだよ。なにしろあの人、小学校の時も中学の時も、授業参観どころか個人懇談にも一度だって来たことねーし。四年以降は全部、ピカえと小父さんが代わりにやってくれたんだよ。
 どっちも親戚でもなんでもねー赤の他人だよ? 自分の娘のそういうのを全部赤の他人に丸投げして、しかも一度も感謝の気持ちを口にしたこともねーんだよ。諸々かかった金だって、ピカえと小父さんが出してくれてたし。それって<まともな親>って言えるか?」
 呆れたように口にする。それに対して結人ゆうとも、
「まあな、俺の実の母親なんざ、母さんの部屋から金を持ち逃げして行方くらますしな」
 苦虫を嚙み潰したような表情で吐き捨てる。
 確かに、実の母親の代わりに彼を五歳の時から育ててくれた、彼の言うところの<母さん>に対し、結人の実母は完全に消息を絶ってしまって、養育費さえ一円たりとも支払っていないのだ。それどころか父親にいたってはどこの誰かも分からないという有様だ。
 それについて結人は、
「まあ、それを言ったら沙奈子のとこも同じだからな。四年ん時に山下やましたさんところに捨てられて父親は行方不明。山下やましたさんの娘として育てられたんだもんな。しかも戸籍上じゃ沙奈子を生んだことになってる母親とは血が繋がってないときてる」
 沙奈子の方を見ながら言った。それに対して沙奈子は、表情一つ変えることなく頷くだけだ。
 改めてそれぞれの境遇を聞いて、一真は、
「それで言やあ俺達はまだマシだったんだなって思わされるよ。戸籍に生みの親として載ってる母親と血が繋がってないとか、それって<公正証書原本不実記載>ってガチの犯罪だろ? 無茶苦茶だよな」
 そう口にするが、結人が、
「いやいや、お前の親だってたいがいだろ? 自転車窃盗に万引きは常習だったなんてなあ、筋金入りだぜ」
 苦笑いを浮かべながら言うと、
「違いない」
 やはり苦笑いで返した。
 こうしてとんでもない話をしているものの、場の空気は実に和やかなものだった。皆、自身の境遇を笑い話にしているのである。
 笑い話にしてしまえるほど、受け止められているということだ。

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