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ついでに買っとこうぜ

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 確かに、一真と琴美が結人ゆうとと友人になれたのは、結人自身の境遇があればこそなのは事実である。けれどそれは<結果論>でしかない、結果は<経緯>を正当化しない。結人を虐げた者達の行為を正当化することはないのだ。
 ただあくまで、結人が救われ一真と琴美の大変に力強い友人になってくれたことはそれぞれの救いになったというだけで。
 そしてカーテンとユニット畳の会計を終えて自分の車に積み込んだ結人は、二人のところに戻る時に自転車を見て、
「そうだ琴美、自転車盗まれたんだったよな? ついでに買っとこうぜ」
 二人の顔を見るなりそう言った。『コミュニケーションが取れていない』ということを実に端的に表す姿だっただろう。
「は…はい……!」
 琴美は結人に言われるとついそう応えてしまうが、一真としても、
『必要なのは必要だしな……』
 と思い、
「じゃあ、琴美、結人と一緒に行って手続きしててくれ」
 そう言って送り出した。自転車とはいえ購入する際に防犯登録や保険の手続きが必要になるからである。一真は、通勤用の電動アシスト自転車を買った時に諸々の手続きが必要なことを知ったのだ。
 おそらく、両親はそんなことを知らないだろうが。何しろ、放置自転車を勝手に持ち帰りそれを使っていたくらいなので、もうずっと自転車を『買った』ことがなかったのだ。現在は購入時に自転車保険に入る必要があることも知らないだろう。
 一真と琴美がそれぞれ中学や高校に入学する際に、学校でまとめて自転車保険に入るように案内されたものの、結局、申し込まずにそのままにしている。保険料が払えないからだ。
 ただ、奨学金の中から捻出して一真も琴美も高校進学時に自転車を買ったが、<TSマーク付帯保険>を付けておけば義務は果たせるのでそれで済ませるしかなかった。なのにどちらも両親が勝手に使って鍵も掛けずに放置して盗まれている。それもあって、両親は、
「自分らも盗まれたんだから、要らない自転車をもらうくらいは当たり前の権利だろ」
 と言って放置自転車を勝手に持ち帰っていたのだ。もっとも、その放置自転車は持ち主が要らなくなって放置していたのではなく、盗まれてそれが乗り捨てられていただけのものも実は少なくない、なので、盗難届が出ていた自転車を持ち帰り勝手に使っていたところを職務質問されて盗難自転車であったことが判明。とはいえ放置されていたのを持ち帰ったことは防犯カメラで確認されたために悪質性は高くないと判断されたというのが経緯であった。
 が、そんなことは関係なく、
「え!? 結人、それ、電動アシスト自転車じゃん!? 十万超えるだろ!?」
 鍋や食器といった小物類を、手持ちの所持金で会計を済ませ自動車のところに戻った一真が、買った自転車をどうやって積むか思案していた結人と琴美を見て口走ったのだった。

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