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転居先

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 転居先は、築年数十五年。元は学生目当てのワンルームの物件だった。約八畳のフローリング。空調完備。入居者は無料で使えるWi-Fiあり。ミニキッチン付き。収納は一般的な押入れ相当のクローゼットがあり、風呂とトイレは別々になっている。
 Wi-Fiは後に設置されたものであり、正直、今時の学生相手にとっては魅力に欠ける物件ということで入居者が埋まらず前のオーナーが手放そうとしていたところを美嘉が購入。そのまま社宅として利用することとなった。
 社宅として運用することで利益を期待せず賃料を大きく下げれば、入居希望者は十分にいた。また、<社宅>なので入居者の身元は明確であり、万が一のことがあっても会社の保険で賄われる。ただし、退職時には速やかな退去が求められるが、これは当然の対応だろう。
「……」
 そんな部屋に一真は小さく感動していた。これまでの部屋と比べれば格段にグレードが上がっているにも拘わらず家賃はわずかとはいえ下がるのだ。なによりWi-Fiがあるというのが嬉しい。おかげで前の部屋で契約したそれが解約できて、その分も節約になる。
 さらには、トランクルームも解約できる。自転車置き場は物置状になっていて、ドアは施錠でき、無断駐輪及び自転車盗対策にも一定の効果を発揮する。まあ、他にも自転車を止められるスペースはあるのだが、そちらは基本的に来客用として用いられていた。
 そしてアパートの前に軽トラックがとまり、迅速に対応する。荷物が少ないので<養生>すら行わず、一気に運び込んだ。部屋は一階の一〇二号室。それこそ三十分とかからず搬入は終わってしまう。
「荷物に傷などがないか確認していただけましたら、こちらにサインをお願いします」
 担当者に言われて確認するものの、どれも使い古されたものなので、傷など新しく付いたとしても判別がつかない。だから一真はざっと見て違和感がなかったことですぐにサインをした。
「ありがとうございました!」
 これにて作業は完了。担当者と作業員は挨拶をして去っていった。代金は不用品の処理費も込みで<SANA>が立て替えて支払うので、この場での授受はない。そしてこの後、給与から天引きという形で分割で一真は代金を支払っていく。もっとも、不用品の処理費込みで三万円弱ではあるが。それを毎月五千円を五回、最後の一回で端数を調節する。
 たった三万円すら一括で払えないような経済状況だったということだ。
 ただ、次の給与からは、両親に使われる心配がないので、多少の余裕はできるだろう。
 貯金もしていけるかもしれない。

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