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親の不始末
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一真も琴美も、引っ越し先にはテレビも持っていくつもりはなかった。どうせ見ないからである。もし必要になった時には中古品でも買えばいい。そう思っていた。
一真は自転車に乗って引っ越し先のアパートに向かい、軽トラックも出発する。琴美は残って空っぽになった部屋の掃除を行う。けれど、両親が雑に使っていたその部屋は、押し入れの襖は破れ、畳は煙草の火が落ちたことで焼けこげだらけ。しかも壁の一部も焦げていた。煙草の不始末による小火である。しかし両親はそのことを管理会社には告げていなかった。おそらく修繕費が取られることになるだろう。
襖の破れや畳の劣化は、すでに二十数年間ここに住んでいたので、どのみち経年劣化で交換することになっていただろうから、美嘉が手配した弁護士が管理会社と交渉して<原状回復の義務>には含まれないようにしてくれるとしても、小火による壁の破損はさすがに責任を逃れることはできないと思われる。
両親は、自分達がしでかしたことの後始末さえせずに行方をくらましたのだ。
敷金わずか七万円という物件だったことで、敷金だけでは到底相殺できないであろう修繕費は、琴美の奨学金から支払うしかない。他に貯えがないのだ。両親が毎月残らず使ってしまうがゆえに。
親の不始末による小火が原因の破損を、子供の奨学金で贖う。
似たような事例がどのくらいあるだろう?
<親ガチャ>という言葉に過剰に反応している者の中には、この種の<心当たりがある親>がいたりはしないか? もしそういう親が、
『親ガチャなんて関係ない! 子供が努力すればいくらでも這い上がれる!』
などと口にしていたとしたら、どうだろう?
『どの口が言う!?』
的な話になりはしないだろうか?
琴美が受けている奨学金は<貸与型>である。つまり<借金>だ。そこから壁の修繕費を出すのだ。子供に『努力しろ』という前に、両親がまず努力するべきではないのか? 宝くじの高額な当選金が入ったのなら、真っ先に自分達の不始末に対処するべきではなかったのか?
少なくとも一真も琴美も、両親が『親ガチャなんて関係ない! 子供が努力すればいくらでも這い上がれる!』などと発言をしたら反発せずにいられないだろう。
両親が責任を負わないから子供が不利益を被っている。それを<子供の側の努力>によってどうにかさせようというのは、典型的な、
<逃げ得>
というものではないのか? それとも、自分の不始末の責任を負いたくないから、『親ガチャなんて関係ない! 子供が努力すればいくらでも這い上がれる!』と言いたいのか?
一真は自転車に乗って引っ越し先のアパートに向かい、軽トラックも出発する。琴美は残って空っぽになった部屋の掃除を行う。けれど、両親が雑に使っていたその部屋は、押し入れの襖は破れ、畳は煙草の火が落ちたことで焼けこげだらけ。しかも壁の一部も焦げていた。煙草の不始末による小火である。しかし両親はそのことを管理会社には告げていなかった。おそらく修繕費が取られることになるだろう。
襖の破れや畳の劣化は、すでに二十数年間ここに住んでいたので、どのみち経年劣化で交換することになっていただろうから、美嘉が手配した弁護士が管理会社と交渉して<原状回復の義務>には含まれないようにしてくれるとしても、小火による壁の破損はさすがに責任を逃れることはできないと思われる。
両親は、自分達がしでかしたことの後始末さえせずに行方をくらましたのだ。
敷金わずか七万円という物件だったことで、敷金だけでは到底相殺できないであろう修繕費は、琴美の奨学金から支払うしかない。他に貯えがないのだ。両親が毎月残らず使ってしまうがゆえに。
親の不始末による小火が原因の破損を、子供の奨学金で贖う。
似たような事例がどのくらいあるだろう?
<親ガチャ>という言葉に過剰に反応している者の中には、この種の<心当たりがある親>がいたりはしないか? もしそういう親が、
『親ガチャなんて関係ない! 子供が努力すればいくらでも這い上がれる!』
などと口にしていたとしたら、どうだろう?
『どの口が言う!?』
的な話になりはしないだろうか?
琴美が受けている奨学金は<貸与型>である。つまり<借金>だ。そこから壁の修繕費を出すのだ。子供に『努力しろ』という前に、両親がまず努力するべきではないのか? 宝くじの高額な当選金が入ったのなら、真っ先に自分達の不始末に対処するべきではなかったのか?
少なくとも一真も琴美も、両親が『親ガチャなんて関係ない! 子供が努力すればいくらでも這い上がれる!』などと発言をしたら反発せずにいられないだろう。
両親が責任を負わないから子供が不利益を被っている。それを<子供の側の努力>によってどうにかさせようというのは、典型的な、
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