45 / 108
査定
しおりを挟む
一真と琴美の自宅があるアパートの前には、一台の軽トラックと、さらにもう一台、<二トントラック>と呼ばれるサイズのトラックが止まっていた。それが今回の引っ越し作業のために用意されたものである。
そして作業員達が手際よく、炬燵や冷蔵庫やファンヒーターや電子レンジやオーブントースターや炊飯器や洗濯機にカバーをかけて運び出しては軽トラックに積み込んでいく。軽トラックはいわゆる<平ボディ>と呼ばれる荷台が剥き出しになっているものではなくて、少し背の高い<箱>状になっているものだった。冷蔵庫などを立てて積み、しかも雨などが降っても荷物が濡れないようにそのタイプが選ばれた。実際、この日は雨こそは降ってないが曇天であり、降水確率も六十パーセントという予報だった。正直、幸先がいい印象はなかっただろう
とは言え、三十分ほどで積み込みは終わってしまう。つまりそれだけ持っていくものが少ないということだ。軽トラックの小さな荷台ですら十分に収まってしまう程度には。生活家電類以外には、衣装ケースが八つ。リュックが三つ。段ボール箱が七つ。布団二組。
それだけだ。箪笥一棹すらない。ビニール製のミニクローゼットと衣装ケースを箪笥代わりに使っていたからである。それ自体はこの狭い部屋に四人で住むための工夫だったとはいえ、いかに二人が最低限の暮らしをしていたかという証左でもあるだろう。ちなみに引っ越し先の部屋にクローゼットがあるので、ここで使っていたものは持っていかない。
引っ越し先で使うものの積み込みが終わると、今度は不用品を運び出す。一真と琴美の服が入っていたミニクローゼットと両親の服が入っていたそれをはじめとして、一つ一つ、一真と琴美に確認を取りつつ、今度は二トントラックへと積み込んでいく。しかし、必要なものは何一つなかった。残しておきたいものはトランクルームの方に退避させていたがゆえに。
両親が使っていたものは全部処分する。服も、偽ブランド品のバッグも、イミテーションのアクセサリー類も。
積み込みつつ、担当者が一つ一つ<査定>も行う。不用品の買取サービスも同時に行っているからだ。もっとも、たいていは値段が付かず処分することになる物品の方が多いので、その処理費と相殺されてしまうことがほとんどだが。
そして今回も、
「以上、買取可能品の合計額が千九百三十円。処理費が二万円ですので、そちらと相殺ということであれば買い取り額を二千円として、処理費については一万八千円とさせていただきますが、どうされますか?」
担当者がそう告げてきたのだった。
そして作業員達が手際よく、炬燵や冷蔵庫やファンヒーターや電子レンジやオーブントースターや炊飯器や洗濯機にカバーをかけて運び出しては軽トラックに積み込んでいく。軽トラックはいわゆる<平ボディ>と呼ばれる荷台が剥き出しになっているものではなくて、少し背の高い<箱>状になっているものだった。冷蔵庫などを立てて積み、しかも雨などが降っても荷物が濡れないようにそのタイプが選ばれた。実際、この日は雨こそは降ってないが曇天であり、降水確率も六十パーセントという予報だった。正直、幸先がいい印象はなかっただろう
とは言え、三十分ほどで積み込みは終わってしまう。つまりそれだけ持っていくものが少ないということだ。軽トラックの小さな荷台ですら十分に収まってしまう程度には。生活家電類以外には、衣装ケースが八つ。リュックが三つ。段ボール箱が七つ。布団二組。
それだけだ。箪笥一棹すらない。ビニール製のミニクローゼットと衣装ケースを箪笥代わりに使っていたからである。それ自体はこの狭い部屋に四人で住むための工夫だったとはいえ、いかに二人が最低限の暮らしをしていたかという証左でもあるだろう。ちなみに引っ越し先の部屋にクローゼットがあるので、ここで使っていたものは持っていかない。
引っ越し先で使うものの積み込みが終わると、今度は不用品を運び出す。一真と琴美の服が入っていたミニクローゼットと両親の服が入っていたそれをはじめとして、一つ一つ、一真と琴美に確認を取りつつ、今度は二トントラックへと積み込んでいく。しかし、必要なものは何一つなかった。残しておきたいものはトランクルームの方に退避させていたがゆえに。
両親が使っていたものは全部処分する。服も、偽ブランド品のバッグも、イミテーションのアクセサリー類も。
積み込みつつ、担当者が一つ一つ<査定>も行う。不用品の買取サービスも同時に行っているからだ。もっとも、たいていは値段が付かず処分することになる物品の方が多いので、その処理費と相殺されてしまうことがほとんどだが。
そして今回も、
「以上、買取可能品の合計額が千九百三十円。処理費が二万円ですので、そちらと相殺ということであれば買い取り額を二千円として、処理費については一万八千円とさせていただきますが、どうされますか?」
担当者がそう告げてきたのだった。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
壊れそうで壊れない
有沢真尋
現代文学
高校生の澪は、母親が亡くなって以来、長らくシングルだった父から恋人とその娘を紹介される。
しかしその顔合わせの前に、「娘は昔から、お姉さんが欲しいと言っていて」と、あるお願い事をされていて……?
第5回ほっこりじんわり大賞「奨励賞」受賞
140字小説
碧井永
現代文学
《140字で完結する小説です》
エックスで書いているものですが、少し変えているところもあります。
カテゴリは「現代小説」となっていますが、主な内容は「ファンタジー」と「恋愛」です。
若者は大家を目指す
大沢 雅紀
現代文学
両親を事故で無くした主人公。「働きたくねぇ」が通じなくなり、強制的にニート生活が終わってしまった。生きていくためにフリーターとなるが、現実は甘くない。そんなある日、たまたま新聞を見ていたら、不動産の競売物件情報が載っていた。
「一戸建てがこの値段で? これってうまくすれば……」
元ニートの成り上がり日記。果たして彼は、働かないで生きていける=現代チートを手に入れられるのか?
俺の旅の連れは美人奴隷~俺だって異世界に来たのならハーレムを作ってみたい~
藤
ファンタジー
「やめてください」「積極的に行こうよ」「ご主人様ってそういう人だったんだ」様々な女の子とイチャイチャしながら異世界を旅して人生を楽しんでいこう。
スルドの声(共鳴) terceira esperança
桜のはなびら
現代文学
日々を楽しく生きる。
望にとって、それはなによりも大切なこと。
大げさな夢も、大それた目標も、無くたって人生の価値が下がるわけではない。
それでも、心の奥に燻る思いには気が付いていた。
向かうべき場所。
到着したい場所。
そこに向かって懸命に突き進んでいる者。
得るべきもの。
手に入れたいもの。
それに向かって必死に手を伸ばしている者。
全部自分の都合じゃん。
全部自分の欲得じゃん。
などと嘯いてはみても、やっぱりそういうひとたちの努力は美しかった。
そういう対象がある者が羨ましかった。
望みを持たない望が、望みを得ていく物語。
虐待弁当
食物連鎖
現代文学
子供のためだったら、何だってやってやるよ。例え他人を傷つけたとしても。
昨今国内でも問題になっているシングルマザーの貧困問題。
30歳代、田舎町で祖父母と3人の子供と暮らす年収400万のシングルマザー。母子手当もあり、本来なら余裕を持って暮らせる筈なのに、それでも貧困になってしまうケースもある。
果たして子供のためなのか、
はたまた自己顕示欲を満たすためなのか。
子供を巻き込み自ら貧困の選択をしたシングルマザーのストーリー。
※この話は実話をもとにしたフィクションです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる