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査定

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 一真と琴美の自宅があるアパートの前には、一台の軽トラックと、さらにもう一台、<二トントラック>と呼ばれるサイズのトラックが止まっていた。それが今回の引っ越し作業のために用意されたものである。
 そして作業員達が手際よく、炬燵や冷蔵庫やファンヒーターや電子レンジやオーブントースターや炊飯器や洗濯機にカバーをかけて運び出しては軽トラックに積み込んでいく。軽トラックはいわゆる<平ボディ>と呼ばれる荷台が剥き出しになっているものではなくて、少し背の高い<箱>状になっているものだった。冷蔵庫などを立てて積み、しかも雨などが降っても荷物が濡れないようにそのタイプが選ばれた。実際、この日は雨こそは降ってないが曇天であり、降水確率も六十パーセントという予報だった。正直、幸先がいい印象はなかっただろう
 とは言え、三十分ほどで積み込みは終わってしまう。つまりそれだけ持っていくものが少ないということだ。軽トラックの小さな荷台ですら十分に収まってしまう程度には。生活家電類以外には、衣装ケースが八つ。リュックが三つ。段ボール箱が七つ。布団二組。
 それだけだ。箪笥一棹ひとさおすらない。ビニール製のミニクローゼットと衣装ケースを箪笥代わりに使っていたからである。それ自体はこの狭い部屋に四人で住むための工夫だったとはいえ、いかに二人が最低限の暮らしをしていたかという証左でもあるだろう。ちなみに引っ越し先の部屋にクローゼットがあるので、ここで使っていたものは持っていかない。
 引っ越し先で使うものの積み込みが終わると、今度は不用品を運び出す。一真と琴美の服が入っていたミニクローゼットと両親の服が入っていたそれをはじめとして、一つ一つ、一真と琴美に確認を取りつつ、今度は二トントラックへと積み込んでいく。しかし、必要なものは何一つなかった。残しておきたいものはトランクルームの方に退避させていたがゆえに。
 両親が使っていたものは全部処分する。服も、偽ブランド品のバッグも、イミテーションのアクセサリー類も。
 積み込みつつ、担当者が一つ一つ<査定>も行う。不用品の買取サービスも同時に行っているからだ。もっとも、たいていは値段が付かず処分することになる物品の方が多いので、その処理費と相殺されてしまうことがほとんどだが。
 そして今回も、
「以上、買取可能品の合計額が千九百三十円。処理費が二万円ですので、そちらと相殺ということであれば買い取り額を二千円として、処理費については一万八千円とさせていただきますが、どうされますか?」
 担当者がそう告げてきたのだった。

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