ハズレガチャの空きカプセル

京衛武百十

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これで一安心だよ

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 こうして実に呆気なく、一真と琴美の転居先が決まった。
「じゃあ、この書類を読んだ上で署名押印して明日までに提出して」
 そう言って玲那に渡された書類についても、休憩時間に署名押印してその日の内に渡す。
「はい、確かに。新しい部屋は、他の入居者は全員、引っ越し作業を行うことになるはずの運送会社の従業員だから、いろいろ状況も分かると思う。で、書類にも書いてあるけど、敷金や礼金の類はなし。家賃は給与から天引き。あと、故意や重過失による破損や汚損以外は原状回復の義務は発生しないから。
 分かってるとは思うけど、故意ってのはまあわざと設備を壊すとかで、重過失というのは、典型的なのは寝煙草で火事を起こすとかカセットコンロを暖房代わりにしようとして火事を起こすとか、そんな感じね。実際にあったんだよ。エアコンの電気代を節約しようとカセットコンロを暖房代わりにしててそこに洗濯物が落ちてきてボヤになったってのが。そん時は壁の一部を焦がしただけで消火はされたんだけど、壁の修理費を弁済してもらったってさ。
 生活が厳しいなら相談してくれたらいいから、そういうことはしないように。よろしくね」
「はい……!」
 玲那から注意事項などを聞き、一真は姿勢を正す。玲那の手は常にスマホをすさまじい速度で操作していてしかもほとんど視線はそちらに向けずに、『しゃべって』いた。改めてその妙技に感心するものの、声を失ってからもう何年もそうしている玲那にとってはもう当たり前のことなので、無意識でそれが行えているらしい。元々、スマホの操作が得意だったというのもあるそうだが、それにしても、である。
「すぐに決まってよかったね。一真くん。これで一安心だよ」
「はい、ありがとうございます。これも皆さんのおかげです」
 フミにもそう声を掛けられて一真は何度も頭を下げた。そこに、
「おはよ~」
 挨拶しながらオフィスに入ってきた女性がいた。社員の一人、山仁やまひと一弧いちこであった。創立時からの社員の一人である。
「どしたん?」
 玲那とフミと一真が集まっていたことに声を上げると、
「おはよ、イチコ」
「一真くんの引っ越し先が決まったんだよ」
 との言葉に、
「おお、そりゃよかったじゃん。おめでと」
 イチコも笑顔でそう言ってくれた。彼女も一真のことを気にかけてくれていた一人だった。
 こうしてオフィスに毎日<出勤>してくるのは基本的にこの四人である。ドール用の家具職人である結人ゆうとと、ドレスのデザイナーにして名目上の代表である沙奈子さなこは、それぞれ自宅がアトリエになっているため、顔を出すのはまれであり、実務上の<社長>と言える絵里奈えりなは、育児のためもあって基本的には在宅勤務なのだった。

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