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ピカと大希
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翌日、出勤すると、
「おはようございます」
オフィスに置かれた大型のモニターに、強い視線を持つ、ショートカットの美麗な女性が映っていた。その隣に、顔に大きな傷跡のある、それでいてとても穏やかに微笑んでいる若い男性の姿。
<ピカ>と<大希>。
<星谷美嘉>と<星谷大希>であった。
すると、美嘉は、挨拶だけを済ませると、それ以外の前置きを一切することなく、
「それでは、一真さんと琴美さんのお引越しの件についてですが、私が所有する物件にちょうど空きがありましたので、そちらに入居していただければと思います。築年数は十五年のワンルーム。社宅として利用しているものですので、家賃はむしろ若干下がるでしょう。他の入居者は他の会社の従業員の方ですが、私が所有する企業のための社宅ですので、問題ありません。
所在地については、現在、一真さんと琴美さんとがお住まいのアパートよりも、<SANA>に近い物件となります。
内見も可能ですが、どうなさいますか?」
淡々と用件だけを伝える美嘉に、一真は、
「いえ、美嘉さんがそうおっしゃる物件なら大丈夫だと思います。よろしくお願います」
と頭を下げた。それに対して美嘉も、
「分かりました」
一真に告げた後、続けて玲那の方を向き、
「それでは手続きを進めておきますので、そちらでも書類の作成をお願いします、玲那さん」
と告げた。実にあっさりとした、
『本当にこれだけでいいんだろうか?』
とさえ思ってしまいそうなやり取りだった。けれど、美嘉にしてみれば、<SANA>の従業員でありその人間性もすでに知っている一真を審査する手間を掛けるなど無駄の極みであり、元より両親と引き離すことができれば早々に提案するつもりだった案を提案したにすぎず、これ以上、時間を掛ける必要もなかったのだ。
すると、隣にいた大希が、
「ごめんね。明日もいろいろ予定があるからまた今度、ゆっくり話をしよう」
一真に向かって笑顔で手を振った。その手には、指が数本なかった。けれど一真はそれを気にすることもなく、
「ああ、そうだな」
手を振って応える。直後、
「それではこれにて失礼します」
美嘉と大希が深々と頭を下げてビデオ通話は終わった。
とにかく忙しい美嘉とのやり取りはいつもこうだった。彼女のスケジュールはそれこそ<秒刻みレベル>であり、しかも、
『休息も仕事の内』
という考えで動いているので、決して疎かにはしない。
そんな美嘉との<面会>を終えた一真は、
「相変わらず怖い人ですね……」
正直な印象を口にする。そんな彼に、文が、
「まあね。仕事してる時のピカしか見たことないと、そう感じるよね」
苦笑いを浮かべて言ったのだった。
「おはようございます」
オフィスに置かれた大型のモニターに、強い視線を持つ、ショートカットの美麗な女性が映っていた。その隣に、顔に大きな傷跡のある、それでいてとても穏やかに微笑んでいる若い男性の姿。
<ピカ>と<大希>。
<星谷美嘉>と<星谷大希>であった。
すると、美嘉は、挨拶だけを済ませると、それ以外の前置きを一切することなく、
「それでは、一真さんと琴美さんのお引越しの件についてですが、私が所有する物件にちょうど空きがありましたので、そちらに入居していただければと思います。築年数は十五年のワンルーム。社宅として利用しているものですので、家賃はむしろ若干下がるでしょう。他の入居者は他の会社の従業員の方ですが、私が所有する企業のための社宅ですので、問題ありません。
所在地については、現在、一真さんと琴美さんとがお住まいのアパートよりも、<SANA>に近い物件となります。
内見も可能ですが、どうなさいますか?」
淡々と用件だけを伝える美嘉に、一真は、
「いえ、美嘉さんがそうおっしゃる物件なら大丈夫だと思います。よろしくお願います」
と頭を下げた。それに対して美嘉も、
「分かりました」
一真に告げた後、続けて玲那の方を向き、
「それでは手続きを進めておきますので、そちらでも書類の作成をお願いします、玲那さん」
と告げた。実にあっさりとした、
『本当にこれだけでいいんだろうか?』
とさえ思ってしまいそうなやり取りだった。けれど、美嘉にしてみれば、<SANA>の従業員でありその人間性もすでに知っている一真を審査する手間を掛けるなど無駄の極みであり、元より両親と引き離すことができれば早々に提案するつもりだった案を提案したにすぎず、これ以上、時間を掛ける必要もなかったのだ。
すると、隣にいた大希が、
「ごめんね。明日もいろいろ予定があるからまた今度、ゆっくり話をしよう」
一真に向かって笑顔で手を振った。その手には、指が数本なかった。けれど一真はそれを気にすることもなく、
「ああ、そうだな」
手を振って応える。直後、
「それではこれにて失礼します」
美嘉と大希が深々と頭を下げてビデオ通話は終わった。
とにかく忙しい美嘉とのやり取りはいつもこうだった。彼女のスケジュールはそれこそ<秒刻みレベル>であり、しかも、
『休息も仕事の内』
という考えで動いているので、決して疎かにはしない。
そんな美嘉との<面会>を終えた一真は、
「相変わらず怖い人ですね……」
正直な印象を口にする。そんな彼に、文が、
「まあね。仕事してる時のピカしか見たことないと、そう感じるよね」
苦笑いを浮かべて言ったのだった。
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