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鼠でもできる程度のことを

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 一真と琴美の両親にとって二人は、
 <宝くじで高額当選すれば捨ててもいい程度の存在>
 だったわけだ。一真の稼ぎを、そして琴美が就職すればその稼ぎを当てにして自分達は遊んで暮らせればそれでよかっただけなのだ。
 そして、宝くじの当選金を二人のために使う気は全くないということでもある。
 どこまでも自分達のことしか考えていない。
 こんな親もこの世には確かにいるのだ。にも拘らず、
『子は親を敬うべき』
 などと戯言を言う者は多い。
『子を生む』
 などという、鼠でもできる程度のことをさも<神の御業>のごとく祀り立て、子を生した自らを上位の存在のように尊べと驕り、
『生んでやった』
 と賢しげに口にする。本当に何様なのか?
 真に敬い尊ぶべき存在であるなら、
『子をこの世に送り出した後に何を成したか?』
 を語れるのではないか? 子を勝手にこの世に送り出した己の行為にどれだけの責を負ったのかを並べられるのではないか? しかし、一真と琴美の両親には何もない。何もないのだ。子供手当や修学支援として支給された現金すら酒と煙草とパチンコ代に使い込んでしまう親が何を成したというのか?
 そういう親が現実に存在するという事実にすら目を背けて、『子は親を敬うべき』とは、どの口が言うのか? 
『どんな親でも本心では子を愛している。子はそんな親の愛に報いるべき』
 だなど、どんな神経をしていれば言えるのか? <感動ポルノ>に描かれる親と子の絆などただの眉唾物でしかないとなぜ理解できない?
 そんな綺麗事が欠片も通用しない親は、現に存在するのだ。

 現実に打ちのめされ悔しさのあまりただ涙するしかできなかったものの、一真も琴美も、泣けるだけ泣いたら、再び冷淡な様子に戻っていた。これが二人の、
 <安全弁>
 なのだろう。自身の心を守るための。
 それからは普通に風呂に入って布団を敷いて、さっさと寝た。起きていると余計なことを考えてしまうからだ。おそらく、明日には<ピカ>と話もできるだろう。そうすれば引っ越しも具体的に決まると思われる。
 正確には、
『選択肢が示される』
 と言うべきか。その選択肢の中からどれを選ぶかは、<大人>である一真が負うことになる。被保護者である琴美にとっても好ましい選択を行うことを求められることになるが、一真にはもうすでにその覚悟はしている。そう、
 <親としての覚悟>
 を、琴美の実の親でもない、血の繋がりもない、ただ琴美より先に生まれて先に大人になったというだけの一真が、だ。
 本来の親がそれをしないがゆえに。

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