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優劣を競いたがる生き物

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 人間というのはとにかく優劣を競いたがる生き物である。野生の動物の場合は生きるために自身の遺伝子を残すためにいかに自身が優秀であるかをアピールすることもあるだろうが、人間の場合はただの自己満足のためにそれを行うものが多い。
『自分はいかに不幸か?』
 なんてことで優劣を競うことに何の意味があるのか? 確かにより同情を集めて助けてもらうことで生き延びようという戦略だと解釈できないこともないかもしれないが、しかし必ずそれが成功するわけでもないはずだ。むしろ反発を招くことさえある。人間という生き物は、自分以外の誰かが救われることに対して妬んだりもする生き物だからだ。
 <SANA>に関わる者達はそれをよく知っている者達でもあった。だから不幸度の高い低いで物事を判断はしない。本人がどれほど苦しんでいるかが重要なのだ。他者からは些細な問題に見えても本人が苦しんでいるならそれは重大なのである。
 その一方で、他者に攻撃的な人間まで救っていられるほどの余裕もないので、取捨選択は行う。そして一真は選ばれただけだ。彼がまっとうに生きようと努力していることが認められたからこそ。

 そんなこんなで戸惑いながらも仕事を終えて家に帰ることになった。月極の駐輪場から自転車を出してきて、それに乗って帰宅の途に就く。
 会社の補助を受けて購入した電動アシスト自転車だった。駐車場の確保が難しいことと交通渋滞の緩和を目指して、公共交通機関を使うか自転車での通勤が推奨されていることにより、補助の制度が設けられていた。自転車の購入代金を無利子無担保で融資してもらえるというものだ。
 一真が購入したのは、有名メーカーの型落ち品が格安で売られていたものだった。それでも税込み九万円の品を<SANA>から融資を受けて購入。毎月三千円を三十回払いで返済しているところである。
 なお、月極の駐輪場も、<SANA>が賃料の半額を補助してくれていた。しかしそれらさえ、一真の人柄が認められてのことであるのも事実。
 無暗に他者に対して攻撃的な人間であれば、そもそも<SANA>に採用はされていない。
 そうして家の近くまで戻ったものの、自転車をとめたのは自宅アパートの駐輪場ではなかった。アパート近くの<トランクルーム>である。そのトランクルーム内に自転車を入れた。自宅に乗って帰ると両親が勝手に使ってしまう可能性が高かったからだ。そしてこのトランクルームには、他にも両親に勝手に触れられては困るものを保管していたのだった。

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