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歳相応のあどけなさ
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「じゃ……」
「ん……」
互いの家に帰るための分かれ道でそんなやり取りをしただけで別れ、琴美と煌輝はそれぞれの帰路に就いた。
実に寒々しい様子だったものの、二人にとってはこれがちょうどよかった。
こうして自宅アパートの前まで来た琴美だったが、その表情は一転して重苦しいものに。留守中に両親が帰ってきているかもしれないと思ってしまったからだ。
けれど、
「……!」
ドアノブを回したが鍵はしっかりと掛かっており、室内には誰かがいる気配もない。両親がいるとだいたいは酒盛りをしているので、気配だけで分かってしまう。
明らかに安堵した表情になった琴美の顔は、歳相応のあどけなさが垣間見えるものだっただろう。
自分で鍵を開けて中を見ても、誰もいない。それが嬉しい。
そう、『誰もいない』ことが嬉しいのだ。よく、
『家で待っていてくれる人がいるのが嬉しい』
的なことが言われたりもするものの、琴美にとってはそれはまったく理解できないことだった。彼女にとって『家に誰かいる』というのは、『両親がいる』ということであり、ただの地獄でしかなかった。
なのに今は、誰もいない。誰もいないことが嬉しくて、顔が緩んでしまう。
そして部屋の真ん中で大の字になる。こんなこと、両親がいる時には絶対にできなかった。パチンコなどに出掛けていない時にはたまにできたものの、これからは毎日だってできると思うと、ニヤニヤが止まらない。
が、
『でも、いつ帰ってくるか分からない……』
と思うと、スッと冷淡な表情に戻ってしまった。今こうしてる瞬間にも玄関が乱暴に開けられて、
『帰ったぞ~!』
と、あの不愉快極まりない声が聞こえてくることを想像するだけで、体が芯から冷えるような気がした。
だから体を起こして、部屋の隅にカバンを置き、制服から部屋着に着替えて、座卓を真ん中に置き、定位置についてスマホをいじり出した。
『あいつらいなかったから部屋で大の字♡』
『でもいつ帰ってくるか分かんないしsagaる~』
などと、コメントのテンションからは想像もつかないほどに冷めた表情で呟いたのちは、アプリのゲームを始めた。別に楽しいわけではない。ただの暇潰しだ。両親がいるとやれ『ツマミを用意しろ』だの『酒が切れたから買ってこい』だの使役されて、課題をする暇もない。なのに今は、その暇がある。
すると、いつの間にかまた、琴美の口元が緩んできていた。
もっとも、本人はそのことにまったく気付いていなかったようだが。
「ん……」
互いの家に帰るための分かれ道でそんなやり取りをしただけで別れ、琴美と煌輝はそれぞれの帰路に就いた。
実に寒々しい様子だったものの、二人にとってはこれがちょうどよかった。
こうして自宅アパートの前まで来た琴美だったが、その表情は一転して重苦しいものに。留守中に両親が帰ってきているかもしれないと思ってしまったからだ。
けれど、
「……!」
ドアノブを回したが鍵はしっかりと掛かっており、室内には誰かがいる気配もない。両親がいるとだいたいは酒盛りをしているので、気配だけで分かってしまう。
明らかに安堵した表情になった琴美の顔は、歳相応のあどけなさが垣間見えるものだっただろう。
自分で鍵を開けて中を見ても、誰もいない。それが嬉しい。
そう、『誰もいない』ことが嬉しいのだ。よく、
『家で待っていてくれる人がいるのが嬉しい』
的なことが言われたりもするものの、琴美にとってはそれはまったく理解できないことだった。彼女にとって『家に誰かいる』というのは、『両親がいる』ということであり、ただの地獄でしかなかった。
なのに今は、誰もいない。誰もいないことが嬉しくて、顔が緩んでしまう。
そして部屋の真ん中で大の字になる。こんなこと、両親がいる時には絶対にできなかった。パチンコなどに出掛けていない時にはたまにできたものの、これからは毎日だってできると思うと、ニヤニヤが止まらない。
が、
『でも、いつ帰ってくるか分からない……』
と思うと、スッと冷淡な表情に戻ってしまった。今こうしてる瞬間にも玄関が乱暴に開けられて、
『帰ったぞ~!』
と、あの不愉快極まりない声が聞こえてくることを想像するだけで、体が芯から冷えるような気がした。
だから体を起こして、部屋の隅にカバンを置き、制服から部屋着に着替えて、座卓を真ん中に置き、定位置についてスマホをいじり出した。
『あいつらいなかったから部屋で大の字♡』
『でもいつ帰ってくるか分かんないしsagaる~』
などと、コメントのテンションからは想像もつかないほどに冷めた表情で呟いたのちは、アプリのゲームを始めた。別に楽しいわけではない。ただの暇潰しだ。両親がいるとやれ『ツマミを用意しろ』だの『酒が切れたから買ってこい』だの使役されて、課題をする暇もない。なのに今は、その暇がある。
すると、いつの間にかまた、琴美の口元が緩んできていた。
もっとも、本人はそのことにまったく気付いていなかったようだが。
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