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発作でも起こしてくれないかなとも
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朝食は白飯とベーコンエッグ。栄養のバランスは必ずしも良くないかもしれないが、ずっとそんなことをいちいち気にしていられるような環境ではなかった。両親はどちらも味が濃く油っぽいものが好きで、野菜はほとんど食べない。
それもあって、心筋梗塞とか脳梗塞とかの発作でも起こしてくれないかなとも思っていた。そうすればわざと救急要請を遅らせて殺してやるのにとも思っていた。けれど不思議と両親は健康だった。そういう不摂生に強い体質なのかもしれない。
本当に不愉快極まりない話だ。
しかも実際に心筋梗塞や脳梗塞の発作を起こしたとしても、体が不自由になっただけで生き延びる可能性もあり、もしそうなってしまっては余計に大変だったかもしれないので、それを免れたのはよかったと言うべきか。
けれど同時に、
『見捨てられたら死ぬって恐怖を味わわせてやってもよかったかもな……』
とも思ったりもする。
腹の中ではそんなことを思いつつも、一真は淡々と用意を済ませた。朝食をとり歯を磨き顔を洗い大まかに髪を整えワイシャツに着替えスラックスに着替えネクタイを締め、スーツを羽織る。ワイシャツは量販店で九百八十円で、スーツはスラックスとセットで同じく量販店で九千九百八十円で買った<吊るし>というものだ。だから厳密には体には完全にフィットしておらず、どこか残念な印象があった。
両親が彼の稼ぎの大半を取り上げてしまうので、その辺りの細かい微調整にさえ金を掛けられないのだ。両親いわく、
「ここまで育ててやった恩を返すのが当たり前だろ!」
とのことだった。まったくどの口が言うのか分からない。両親の稼ぎなど精々アルバイトを転々として得たものでしかなく、その額は二人合わせて年間で二百万程度。国民年金保険料の支払いを免除してもらい、所得税は非課税。さらには国民健康保険料も通常の最低額よりさらに減免してもらって、こども手当ももらい、ようやくかろうじて生きているような状態だった。
実に分かりやすい<最底辺>である。
それでもまだ、子供らのことを愛しているなら救いもあったかもしれないが、
『死なせたら厄介なことになるから死なせないようにしてきた』
だけであって、それで『育てた』などと、どの口が言うのか。にも拘らず世間は、
『生んでもらって育ててもらった恩を感じるべきだ』
と言う。
それについて一真は、
『要するにロクでもない親が自分の行いを責められたくなくてそんなことを言ってるんだろう』
と考えていた。そうでなければ、こんなものを<恩>だなどと、到底恥ずかしくて口にできないだろうと感じていたのである。
それもあって、心筋梗塞とか脳梗塞とかの発作でも起こしてくれないかなとも思っていた。そうすればわざと救急要請を遅らせて殺してやるのにとも思っていた。けれど不思議と両親は健康だった。そういう不摂生に強い体質なのかもしれない。
本当に不愉快極まりない話だ。
しかも実際に心筋梗塞や脳梗塞の発作を起こしたとしても、体が不自由になっただけで生き延びる可能性もあり、もしそうなってしまっては余計に大変だったかもしれないので、それを免れたのはよかったと言うべきか。
けれど同時に、
『見捨てられたら死ぬって恐怖を味わわせてやってもよかったかもな……』
とも思ったりもする。
腹の中ではそんなことを思いつつも、一真は淡々と用意を済ませた。朝食をとり歯を磨き顔を洗い大まかに髪を整えワイシャツに着替えスラックスに着替えネクタイを締め、スーツを羽織る。ワイシャツは量販店で九百八十円で、スーツはスラックスとセットで同じく量販店で九千九百八十円で買った<吊るし>というものだ。だから厳密には体には完全にフィットしておらず、どこか残念な印象があった。
両親が彼の稼ぎの大半を取り上げてしまうので、その辺りの細かい微調整にさえ金を掛けられないのだ。両親いわく、
「ここまで育ててやった恩を返すのが当たり前だろ!」
とのことだった。まったくどの口が言うのか分からない。両親の稼ぎなど精々アルバイトを転々として得たものでしかなく、その額は二人合わせて年間で二百万程度。国民年金保険料の支払いを免除してもらい、所得税は非課税。さらには国民健康保険料も通常の最低額よりさらに減免してもらって、こども手当ももらい、ようやくかろうじて生きているような状態だった。
実に分かりやすい<最底辺>である。
それでもまだ、子供らのことを愛しているなら救いもあったかもしれないが、
『死なせたら厄介なことになるから死なせないようにしてきた』
だけであって、それで『育てた』などと、どの口が言うのか。にも拘らず世間は、
『生んでもらって育ててもらった恩を感じるべきだ』
と言う。
それについて一真は、
『要するにロクでもない親が自分の行いを責められたくなくてそんなことを言ってるんだろう』
と考えていた。そうでなければ、こんなものを<恩>だなどと、到底恥ずかしくて口にできないだろうと感じていたのである。
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