ハズレガチャの空きカプセル

京衛武百十

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堂々と部屋の真ん中に

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 ほとんど会話らしい会話もなく、微笑ましいやり取りもなく、かつては風呂なしトイレ共同の、ミニキッチン付き八畳一間という部屋に無理矢理ユニットバスを入れることで、体裁上は、
『風呂トイレ付き六畳一間』
 という形にした安アパートの一室で、一真と琴美はお互いに好きなように寛いでいた。嫌な両親がいなくなったことで本当に寛いでいた。両親がいた時には、テレビを見ながら酒盛りをする両親のためにツマミをつくったり酒や煙草の買い出しに行ったりと、『寛ぐ』なんてことができなかった。だから、こんなに冷え切った空気感ながら、これでも二人にしてみれば寛いでいるのだ。
 そうして十一時になると、
「俺、そろそろ寝るけど、どうする……?」
 尋ねる一真に、
「ん……」
 琴美もちょうど動画を見終わったところのようで立ち上がり、座卓を片付ける。一真はそこに布団を敷いて、
「あ……」
 つい、いつもの癖で両親の分も敷こうとしてからもう不要なことを思い出し、押し入れに戻した。その口元が、わずかに吊り上がって笑みの形を作っていた。邪魔な両親がいなくなってくれたことを内心喜んでいるのだが、それがこの程度しか表に出ないのである。
 というのも、いつまた気が変わって戻ってくるから分からないからだ。一億五千万あったところでどんな形で散財してすぐまた頼ってくるか分かったものじゃない。
 そういう人間だということは骨身にしみて理解している。
 だから今はまだ諸手を上げて喜べない。あくまで胸の内で小さくガッツポーズするような程度だ。あとは、宅配ピザでささやかに祝うくらいで。
 また、自分達の布団を、部屋の真ん中に敷いた。以前は両親のためのスペースだったところだ。一真と琴美は、湿気が漏れ出てくるユニットバスの前で壁に張り付くように寄せて寝ていた。父親が夢を見ている時に手や足をとんでもない勢いで突き出してきたりするので、それから琴美を守るために一真が盾になっていたりもした。
 そんな暮らしだった。
 けれど今は、堂々と部屋の真ん中に余裕をもって布団を敷けた。
 一真も琴美もそれが嬉しかったものの口には出さず表情にも出さず、蛍光灯のスイッチに繋がった紐を一真が引いて消灯。就寝する。
 なのに……
「……」
「……」
 二人とも、いつもと状況が違っていることですぐには寝付けなかった。これまでは琴美は一真と壁の間に挟まれていたし、一真は父親の手足から身を守るために体を丸めて琴美の方を向いて寝ていたしで。
 だからいつの間にか二人して、互いの体が触れそうなくらいに近付いて、互いの呼吸の音を聞きながら、ようやく眠れたのだった。

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