美智果とお父さん

京衛武百十

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この世から人間はいなくなりました。めでたしめでたし

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「美智果のクラスでイジメがあって、イジメられてた子が自殺したとする。美智果はその子のことをイジメてたつもりはないけど、怖くて助けてあげることもできなかった。だけど<助けようとしなかった>ことでイジメに加担したと判断されて美智果にも死刑判決が出た。

としたら美智果はどう思う?」

「イヤ…イヤだよそんなの! それじゃイジメられてる人を助けたりとかできない弱い人はみんな死刑になっちゃう…!」

「だよね。

またこういうことも考えられる。お父さんがネットで誰かを批判したとする。そしてそれが原因でお父さんが批判した人が自殺して、それでお父さんに死刑判決が下った。

美智果は納得できる?」

「……!!」

美智果はもう言葉もなくただ頭をぶんぶんと振っただけだった。

「そうだね。お父さんもそんなことで美智果に死刑判決とか出たら納得なんてできない。

だけど、逆に、美智果が自殺した子だったりしたら、お父さんはやっぱりその原因を作った奴は死刑にしてほしいと思ってしまうと思う。

どういう事例で死刑にするかどうかっていうのは、いつもその綱引なんだと思うんだ。

お父さんの出した例は極論だけど、死刑を出す範囲を広げていくっていうのは、究極的にはそういうことまで考えていくっていうことじゃないかな。広げていくと際限がない。本当に些細な理由で誰でも死刑になる可能性が出てきてしまう。だから慎重になるしかないんだよ」

「……」

「もし、美智果がネットで炎上して吊し上げられたりして自殺したら、お父さんは、その炎上に参加した奴全員を殺したいと思うよ。悪気があったとかなかったとか、死ぬと思ったとか思わなかったとか関係ない。参加した奴全員を一人残らず、例え小学生でも、ネットしか楽しみのない寝たきりの人でも、自分がイジメられててその憂さ晴らしとして炎上に参加した奴でも関係ない。何十万人でも何百万人でも、その全員を殺したい。その全員を死刑にしてほしい。

そして、お父さんと同じように思う人が、次々と憎い相手を死刑にしていって、やがてこの世から人間はいなくなりました。めでたしめでたし。

ってか?」

「……」

美智果は泣いてた。唇をかみしめて顔を真っ赤にして。自分の中に湧き上がった感情をどう処理すればいいのか分からなくなったんだと思った。

「ごめん…怖かったよな……

だけど、どんな理由があっても人の命を奪うってことは決して綺麗事じゃないんだ。正義なんていう綺麗事じゃ説明できないことなんだよ……」

「う…ひくっ…! っぐ……っ!」

僕の胸に顔をうずめてしゃくりあげる美智果を、ただ抱き締めるしかできなかったのだった。

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