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初めての丸ごとクリスマスケーキ
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山下沙奈自身はまだプレゼントというものを理解出来ていなかっただろう。だからそんなものを欲しがりはしなかったし、神河内良久もクリスマスツリーを用意した以外には特に何も用意しなかった。だが、ハウスキーパーの石生蔵千草からは、決して派手ではないがしっかりとしたクリスマス用のショートケーキが用意されていたのだった。しかも、手作りである。
とは言え、実は自分の子供達の為にケーキを作る前に練習として作ったものというのが本当のところだったのだが。しかし出来としては十分であり、喜ばれるものであると言えるだろう。それが、山下沙奈の前に置かれていたのだった。
彼女とて、ケーキくらいは見たことがある。ほんの一口程度だが食べたこともある。だがホールごと丸々出されるのは初めてだった。だからどうしていいのかよく分からず、神河内良久を見上げてしまった。そこで彼も、口で説明するよりもと思ったのか、フォークを取り出してざっくりとケーキを切り取り、それを口に運んだのだった。要するに、『このまま食べろ』ということだ。
「食べたらいい…」
それだけ言い残して、自分は人形作りに戻ってしまった。甘いものはあまり好きではなかったのだ。一部分が欠けたケーキを前に、彼女もフォークを手にして彼と同じようにざっくりと切り取り、それを大きな口を開けて頬張った。すると、彼女の目に何かが揺らめくのが見えた。程よい甘さに加減されたそれは、彼女にとっても何か訴えるものがあったようだ。
その後、がつがつと貪るようにケーキを口に運んだ彼女は、なんと彼が一口食べただけでほぼ1ホール丸ごとあったそれを食べ切ってしまったのだった。昼食としてスパゲッティが用意されていたにも拘わらずだ。さすがにスパゲッティまではすぐに食べられなかったが、いつものように食事の後に風呂に入って上がった後に、テーブルに置かれたままで少々干からびかけ、フォークで持ち上げると塊のようになってしまうそれも、端から丸かじりする形でおやつのようにして食べてしまったのだった。
楽しむ為ではなくただ生きる為に食うのが彼女の習性とは言え、すごい食欲である。しかも、彼女は食べ終わったスパゲッティの皿を、彼に言われるまでもなく自分で流しに置くということまでしたのだ。彼がやっていたことを真似ただけなのだが、それに気付いた彼が、
「ありがとう…」
と、声まで掛けたのである。事情を知らない人間が見れば何ということのない光景でも、この二人がそうしたというのは実に大きな変化とも言えたのであった。
とは言え、実は自分の子供達の為にケーキを作る前に練習として作ったものというのが本当のところだったのだが。しかし出来としては十分であり、喜ばれるものであると言えるだろう。それが、山下沙奈の前に置かれていたのだった。
彼女とて、ケーキくらいは見たことがある。ほんの一口程度だが食べたこともある。だがホールごと丸々出されるのは初めてだった。だからどうしていいのかよく分からず、神河内良久を見上げてしまった。そこで彼も、口で説明するよりもと思ったのか、フォークを取り出してざっくりとケーキを切り取り、それを口に運んだのだった。要するに、『このまま食べろ』ということだ。
「食べたらいい…」
それだけ言い残して、自分は人形作りに戻ってしまった。甘いものはあまり好きではなかったのだ。一部分が欠けたケーキを前に、彼女もフォークを手にして彼と同じようにざっくりと切り取り、それを大きな口を開けて頬張った。すると、彼女の目に何かが揺らめくのが見えた。程よい甘さに加減されたそれは、彼女にとっても何か訴えるものがあったようだ。
その後、がつがつと貪るようにケーキを口に運んだ彼女は、なんと彼が一口食べただけでほぼ1ホール丸ごとあったそれを食べ切ってしまったのだった。昼食としてスパゲッティが用意されていたにも拘わらずだ。さすがにスパゲッティまではすぐに食べられなかったが、いつものように食事の後に風呂に入って上がった後に、テーブルに置かれたままで少々干からびかけ、フォークで持ち上げると塊のようになってしまうそれも、端から丸かじりする形でおやつのようにして食べてしまったのだった。
楽しむ為ではなくただ生きる為に食うのが彼女の習性とは言え、すごい食欲である。しかも、彼女は食べ終わったスパゲッティの皿を、彼に言われるまでもなく自分で流しに置くということまでしたのだ。彼がやっていたことを真似ただけなのだが、それに気付いた彼が、
「ありがとう…」
と、声まで掛けたのである。事情を知らない人間が見れば何ということのない光景でも、この二人がそうしたというのは実に大きな変化とも言えたのであった。
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