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彼女の新しい寝床
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世の中はクリスマスと浮かれていても、神河内家にとってはまるで関係ない話だった。だが、それとは別に、この家においては大きな変化があった。もっとも、逆に世間からすればどうでもいい変化だったのだが。
昼夜関係なくエアコンは十分に効いていて相変わらず快適な環境だったが、いつもの定位置に、彼女の姿がなかった。時刻は深夜十二時過ぎ。神河内良久はいつもの如く作業台で人形作りを行っており、留守という訳ではない。時間も時間なので風呂でもない。
では、彼女はどこに行ったのか?
その答えは、リビングに隣接した寝室にあった。見ると、寝室に置かれたダブルベッドの掛布団が、不自然に膨らんでいた。さらによく見ると、その布団の隙間から人の頭が見えた。そう、彼女がそこで寝ているのである。リビングのカーペットを自分の居場所として家にいる間は殆どそこから動かず寝るのもカーペットの上だった筈の彼女が、彼のベッドでもあるそこで寝ていたのだ。
それは、先週のことだった。突然ひどく冷え込んでエアコンによる暖房が追い付かなかったその日、彼がベッドで寝ていると、彼女が黙って勝手に布団に潜り込んできたのである。さすがに寒くて寝られなかったのかもしれない。そこで少しでも温かいところを求めてベッドに入ってきたのだろう。
しかし、彼は何も言わなかった。何も言わず、追い出すこともせず、彼女の好きにさせた。彼女もそれが分かっていた可能性が高い。彼がそういうことでいちいち何かしてくることがないのが分かっていて、そうしたのかも知れなかった。その日以来、彼女の寝床は彼のベッドになった。
かと言って、彼女が彼に擦り寄って甘えるような仕草を見せるかと言えば、それは全く無い。たまたま同じ場所を寝床にしただけの別の生き物のように、やはり互いに干渉しようともしなかった。
そんな感じで表面上は全く慣れ合うことをしない二人なのに、お互いに相手が何をやってもそれにケチを付けるようなこともしない。そういう関係性がすっかり出来上がっていたのである。
深夜一時を回り、彼もようやく作業を終えてベッドへと潜り込んだ。触れることも近付くこともなく微妙な距離感を保ったまま、同じベッドで二人は眠った。にも拘らず、それはどこか微笑ましい光景のようにも見えた。もっとも、それはこれまでの経緯を知る者だけが感じる錯覚かもしれないが。
だがそれでも確かに、二人の関係はきちんと成立しているのであった。
昼夜関係なくエアコンは十分に効いていて相変わらず快適な環境だったが、いつもの定位置に、彼女の姿がなかった。時刻は深夜十二時過ぎ。神河内良久はいつもの如く作業台で人形作りを行っており、留守という訳ではない。時間も時間なので風呂でもない。
では、彼女はどこに行ったのか?
その答えは、リビングに隣接した寝室にあった。見ると、寝室に置かれたダブルベッドの掛布団が、不自然に膨らんでいた。さらによく見ると、その布団の隙間から人の頭が見えた。そう、彼女がそこで寝ているのである。リビングのカーペットを自分の居場所として家にいる間は殆どそこから動かず寝るのもカーペットの上だった筈の彼女が、彼のベッドでもあるそこで寝ていたのだ。
それは、先週のことだった。突然ひどく冷え込んでエアコンによる暖房が追い付かなかったその日、彼がベッドで寝ていると、彼女が黙って勝手に布団に潜り込んできたのである。さすがに寒くて寝られなかったのかもしれない。そこで少しでも温かいところを求めてベッドに入ってきたのだろう。
しかし、彼は何も言わなかった。何も言わず、追い出すこともせず、彼女の好きにさせた。彼女もそれが分かっていた可能性が高い。彼がそういうことでいちいち何かしてくることがないのが分かっていて、そうしたのかも知れなかった。その日以来、彼女の寝床は彼のベッドになった。
かと言って、彼女が彼に擦り寄って甘えるような仕草を見せるかと言えば、それは全く無い。たまたま同じ場所を寝床にしただけの別の生き物のように、やはり互いに干渉しようともしなかった。
そんな感じで表面上は全く慣れ合うことをしない二人なのに、お互いに相手が何をやってもそれにケチを付けるようなこともしない。そういう関係性がすっかり出来上がっていたのである。
深夜一時を回り、彼もようやく作業を終えてベッドへと潜り込んだ。触れることも近付くこともなく微妙な距離感を保ったまま、同じベッドで二人は眠った。にも拘らず、それはどこか微笑ましい光景のようにも見えた。もっとも、それはこれまでの経緯を知る者だけが感じる錯覚かもしれないが。
だがそれでも確かに、二人の関係はきちんと成立しているのであった。
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