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非常にささやかな彼の変化
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学校で一悶着があった頃も、山下沙奈と神河内良久の関係には大きな進展は見られなかった。しかし、相変わらずの緊張案は漂わせつつも安定している様子は窺えた。そして、ほんの僅かな、恐らくは気まぐれにしか過ぎない程度の変化だが、本人でさえ気付いてないかも知れない程度の些細な変化だが、彼女に対する神河内良久の口調が変わってきていたのであった。
今日も、夕食の後で風呂で遊んでいる彼女のところに入ってきた彼は、無表情なままで自分に視線を向ける彼女に対し、「おいで」と声を掛けた。そう、これまでは「来なさい」とか「上がりなさい」とかの命令口調だったものが、『おいで』と、若干柔らかいものになっていたのである。
とは言え、その態度も表情もこれまでとは何も変わっていない。冷淡で事務的で愛想の欠片もないものでしかないのも事実だった。しかし、神河内良久自身にも確実に変化の兆しは見え始めていたと言えるだろう。
彼はこれまで、誰のことも信じなかったし本心では受け入れてこなかった。それは相手も同じだったからだ。陰鬱に圧し黙って射るような視線で相手を見る人間など普通は受け入れてもらえる筈もない。人形作家・<神玖羅>としての彼にはファンもいたし、彼のそういう態度を『クール』とか『ステキ』とか評価する人間もいたが、それはあくまで人形作家・神玖羅に対する評価でしかないというのもやはり事実なのである。決して、神河内良久という個人に対するものではない。
だが、彼女は、山下沙奈は、そんなことを一切気にしていなかった。当たり前と言えば当たり前なのだが、彼女にとってそんなことはどうでもいいことだったのだ。だから彼がいくら冷淡な態度をとっていても、自分にとって苦痛になるようなことでなければ歯向かう必要すらなかった。決して慣れ合ってはこないが、反抗的な態度を見せる訳でもない。そういう彼女の姿に、彼もいつしか、ほんの少しだけだが気を許していたのだろう。
不器用と言えばあまりにも不器用すぎる二人だったが、それでもお互いに害になるようなものでないのなら、これも一つの人間関係の形であると言ってもいいのかも知れない。
これまでと同じように彼の膝にどっかと座った彼女の体を、彼は素手で丁寧に泡立てた石鹸を使い洗いあげた。それこそ体の隅々まで。そして彼女は、嫌がるどころかうっとりとした表情でそれを受け入れていたのであった。
今日も、夕食の後で風呂で遊んでいる彼女のところに入ってきた彼は、無表情なままで自分に視線を向ける彼女に対し、「おいで」と声を掛けた。そう、これまでは「来なさい」とか「上がりなさい」とかの命令口調だったものが、『おいで』と、若干柔らかいものになっていたのである。
とは言え、その態度も表情もこれまでとは何も変わっていない。冷淡で事務的で愛想の欠片もないものでしかないのも事実だった。しかし、神河内良久自身にも確実に変化の兆しは見え始めていたと言えるだろう。
彼はこれまで、誰のことも信じなかったし本心では受け入れてこなかった。それは相手も同じだったからだ。陰鬱に圧し黙って射るような視線で相手を見る人間など普通は受け入れてもらえる筈もない。人形作家・<神玖羅>としての彼にはファンもいたし、彼のそういう態度を『クール』とか『ステキ』とか評価する人間もいたが、それはあくまで人形作家・神玖羅に対する評価でしかないというのもやはり事実なのである。決して、神河内良久という個人に対するものではない。
だが、彼女は、山下沙奈は、そんなことを一切気にしていなかった。当たり前と言えば当たり前なのだが、彼女にとってそんなことはどうでもいいことだったのだ。だから彼がいくら冷淡な態度をとっていても、自分にとって苦痛になるようなことでなければ歯向かう必要すらなかった。決して慣れ合ってはこないが、反抗的な態度を見せる訳でもない。そういう彼女の姿に、彼もいつしか、ほんの少しだけだが気を許していたのだろう。
不器用と言えばあまりにも不器用すぎる二人だったが、それでもお互いに害になるようなものでないのなら、これも一つの人間関係の形であると言ってもいいのかも知れない。
これまでと同じように彼の膝にどっかと座った彼女の体を、彼は素手で丁寧に泡立てた石鹸を使い洗いあげた。それこそ体の隅々まで。そして彼女は、嫌がるどころかうっとりとした表情でそれを受け入れていたのであった。
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