神河内沙奈の人生

京衛武百十

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プールでの出来事

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山下沙奈やましたさなは、夏休みというものが何なのかそもそも理解してなかった。朝、これまでは一緒に登校していた他の子供達がいないことに違和感を覚えたのかきょろきょろと辺りを見回したり、付き添ってくれている神河内良久かみこうちよしひさを何度も見上げたりということを行った。

夏休みに入ってからも、七月の間は、水泳の自主練習という名目でプールが解放されていた。その為、プールの時間になるまでは勉強をし、それからプールで遊んだ。

それまでにも何度もプールの授業があったことで、この頃にはもう山下沙奈も犬かきではなく平泳ぎでそれなりに泳ぐことが出来るようになっていた。別に教えた訳でもなく、他の生徒がそうやって泳ぐのを見ていて真似をするようになったのである。とは言え、顔は常に水の上にあげたままだから非常に不格好な泳ぎ方ではあったが。

しかし伊藤玲那いとうれいなは、そんな彼女の様子を愛おしそうに見詰めていた。

だがその時、はしゃぎ過ぎてテンションが上がった一般クラスの男子生徒が、ふざけて彼女に対して思い切り水をかけたのだった。

「…!」

伊藤玲那の体に緊張が走り抜けた。こういう突発的な行為に対して彼女がどういう反応を見せるのか、まだ十分に確認が取れていなかったからだ。もしこれで彼女が攻撃的な行動に出るなら、その時は自分が体を張って止めなければいけないと思っていた。

が、次の瞬間に起こるかもしれない事態に対して身構えていた伊藤玲那の前で彼女が取った行動は、男子生徒に冷たい視線を向けただけで何も言わずにまた泳ぎ出すという意外なものだった。

「山下さんはにこやか学級の子だから、あまりふざけないであげてね」

伊藤玲那は胸を撫で下ろしつつ、彼女に水をかけた男子生徒にそう諭した。すると男子生徒は、謝りこそしなかったがバツが悪そうにその場を離れた。謝ってもらえればそれに越したことはなかったが、彼女に対して無用なちょっかいを掛けずにいてくれればそれでよしと考え、それ以上の深追いはしなかった。

子供のすることにあまり口出しするべきでないと考える向きもあるかもしれない。だが、相手が不快に感じる可能性のある行為を諫めることもなく見逃すというのは、やはり好ましくないと言えるだろう。これを見て見ぬふりをするというのは、そういうことを行った男子生徒側にとっても、それが好ましくない行為であるということを知る機会を奪われることにもなるのだから。

伊藤玲那は、そういうことを知っている教員であった。 

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