神河内沙奈の人生

京衛武百十

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家庭訪問

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いつものように学校での授業を終え、山下沙奈やましたさな伊藤玲那いとうれいなに付き添われて校門まで来ていた。そこで待っていた神河内良久かみこうちよしひさと合流し、三人はそのまま神河内邸へと向かったのだった。

これまでは校門のところで分かれていた筈の伊藤玲那がついてくることに、彼女は不思議そうな顔をして神河内良久と伊藤玲那を交互に見た。

「今日は、沙奈さんのおうちで保護者の方とお話をさせていただきます」

彼女が疑問に感じていることを察した伊藤玲那が、努めて明るく穏やかな感じでそう言った。それがどこまで言葉として彼女に通じたかはいささか疑問だが、取り敢えず伊藤玲那が家までついてくると言ってるらしいというのは理解出来たらしく、落ち着きなく二人の顔を窺うような様子は収まり、その後は真っ直ぐに前を向いて淡々と歩くだけだった。

家に着くと、彼女はやはり普段通りに自分の居場所の辺りでランドセルを放り出して、カーペットの上に膝を抱えてうずくまった。

神河内良久はそんな彼女には目もくれず、冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出してグラスに注ぎ、黙ってテーブルの上に置き、座布団を敷き、自分は作業台の椅子に腰を下ろした。社会人としてはいささか有り得ない態度であり、恐らく他の教師なら眉をひそめもしただろう。だが伊藤玲那はそんなことには全く構う様子さえなかった。

「学校での沙奈さんは、大変に落ち着いていて順調だと思います」

伊藤玲那は余計な前置きは抜きにして、単刀直入にそう事実だけを述べた。こういうタイプには回りくどい話は適さないことを知っているからだ。そしてさらに続ける。

「本日は、家庭での沙奈さんの様子をお伺いしたくて、お邪魔させていただきました」

そう言いながら部屋の様子をぐるりと見まわし、改めて山下沙奈を見た。

山下沙奈の方はと言うと、何故か家までついてきた伊藤玲那をじろりと見詰めながら、やはり膝を抱えて座っているだけだった。しかし、彼女の落ち着いた様子に、伊藤玲那はホッとしたものを感じていた。

その時、玄関のチャイムが鳴らされ、インターホンを確認した神河内良久が電子錠のスイッチを押し鍵を開けた。「失礼します」と声を掛けながら入って来たのは、ハウスキーパーの石生蔵千草いそくらちぐさと彼女の部下二人だった。

「今日はリビングの掃除はいい。他を頼む」

神河内良久が短く指示すると、「承知しました」とやはり短く応えた石生蔵千草が部下達にも指示し、手際よくいつもの作業を始めたのであった。 

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