神河内沙奈の人生

京衛武百十

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彼女と櫛

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彼女は服を着る程度のことなら自分で出来た。とは言え、ボタンの類は苦手のようなので、もっぱら脚を通すだけでいいレギンスやスパッツと、頭からかぶって腕を通せばいいだけの伸縮性のある肌着とシンプルなワンピースばかりではあったが。しかし当然、彼女はファッションなどに欠片ほども関心を示さない。着ろと言われればボロ布だって躊躇わずに着るだろう。彼女にとってはどうでもよかったのだ。裸で外出しようが、彼女は何とも思わない。

とは言え、さすがにそういうわけにもいかず彼は彼女に服を着るように命じ、朝食を食べさせた。

食事の時の彼女は、箸は全く使えないしスプーンですら幼児のように掴むだけなので朝はだいたいサンドイッチのように手掴みで食べられるものが多かった。そしてとりあえず落ち着いて食べるようにはなっていた。それでも、周囲に対する警戒は怠らない。彼が部屋の中を移動すればそれを目で追って監視し、物音がすればそちらに視線を送って体を緊張させる。ここに来てまだ二週間程度だから仕方ないのかもしれないが、やはり野生動物のような振る舞いは相変わらずだった。

それでも朝食を終えた彼女を見下ろしながら、彼はその脇に立った。彼女が鋭い視線と警戒を向けてくるのを感じつつ、しかし彼はそれを意にも介さずに手に持った櫛で彼女の髪を整えだした。手入れが行き届いておらず痛みが激しく絡まり合った彼女の髪を、彼は意外なほど丁寧に、引っかかっても強引に櫛を動かそうとせず、少しずつ梳きほぐすように櫛を入れていった。

苦痛を与えられるわけじゃないと彼女も理解し、大人しくされるがままになっていた。すると数分で、綺麗とまではさすがに言い難いが、それまで絡まり合って広がった髪がいくらか落ち着きを取り戻していたのだった。まあ、散髪に行ったことでそれ以前に比べればそもそもかなりマシにはなっていたのではあるが。

この時、彼が使った櫛は、櫛作りの名人と呼ばれる職人の手によるもので、彼は人形の髪を整える為にそれを持っていた。その櫛は、梳くだけで髪が美しくなるとさえ言われる一品だった。それが一番、人形の髪を整えるのに使いやすかったので彼も愛用していたのだ。その櫛を、彼女の髪を梳くのにも使ったのである。

家にいる間は別にどうでもよかったのだが、一応は学校にも行くようになったのだから、多少は身なりにも気を付けないといけないと彼なりに思ってのことである。

こうして見た目には普通の小学生っぽい姿になった彼女は、またランドセルを背負わされて、集団登校の班のところに彼に伴われてやってきた。ちなみに今日はもうケースワーカーの同伴は無い。こうして徐々に学校生活に慣れさせていこうという方針なのであった。

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