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初めての集団登校
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人間としての常識的な感覚を一切持たない彼女を学校に通わせるというのは、正直言ってあまり好ましいこととは言えなかっただろう。せめてそれが多少なりとも身に付くまで待つということの方が合理的な判断とは思われるのだが、いかんせん、子供に教育を受けさせる義務というものが存在する以上、学校には通わせるしかなかった。
学校に通うという方法以外にも教育を受けさせる手段はあった筈だが、この時点では誰もそれを彼に提案はしてくれなかったのだ。また彼も、そういうことについてまるで興味が無かった為に、頭によぎることさえなかった。
『学校に通わせろというのならそうしてやる。その結果として何が起ころうが僕の知ったことじゃない』
それが彼の本音だった。
とは言え、時間についてはある程度の融通が効く仕事をしているので、彼女が問題を起こさず学校に行き返り出来るようになるまでは付き添いとして送り迎えをすることになっていた。他人がどうなろうと知ったことではないが、これ以上の厄介事に巻き込まれるのは望んではいなかった。
だから彼が送り迎えを了承したのは、実は彼女の為ではなかった。単に自分自身の為だったのだ。だがそれでも、結果として彼女や、彼女が他の児童に何かするようなことを未然に防げるのであれば、目的はそれほど重要ではないだろう。子供達の無事が担保されればそれでいいのだ。
しかも、彼自身にとっても興味深かったのは、この子供達が非常に大人しくて従順だったということだった。テレビなどではいかにも最近の子供は躾がなっていなくて傍若無人に振る舞うような印象を持たせることを言っていたが、実際にこうして見れば、多少は列が乱れたりすることはあっても皆大人しく黙々と歩いていた。むしろその大人しさが不気味なくらいだった。子供というのはもっとこう、覇気があると言えば聞こえはいいが、ただ活力が無秩序に外に溢れてきている騒々しいだけのものだったという印象があったのである。少なくとも自分が子供の頃はそんな感じだったような気がするのだがと、彼は思っていた。
そんな中、彼女も特に何か問題を起こすでもなく、周囲の子供達に合わせるように黙々と歩いて無事に学校へと辿り着いた。すると校門のところ立っていた教師の中に、伊藤玲那の姿もあった。
「おはようございます」
そう声を掛けられて、彼も「おはようございます」と最低限の挨拶は交わした。
「沙奈さん、おはよう」
伊藤玲那に声を掛けられながら特に表情を変えることもなく大人しく連れて行かれる彼女を、神河内良久は黙って見送ったのだった。
学校に通うという方法以外にも教育を受けさせる手段はあった筈だが、この時点では誰もそれを彼に提案はしてくれなかったのだ。また彼も、そういうことについてまるで興味が無かった為に、頭によぎることさえなかった。
『学校に通わせろというのならそうしてやる。その結果として何が起ころうが僕の知ったことじゃない』
それが彼の本音だった。
とは言え、時間についてはある程度の融通が効く仕事をしているので、彼女が問題を起こさず学校に行き返り出来るようになるまでは付き添いとして送り迎えをすることになっていた。他人がどうなろうと知ったことではないが、これ以上の厄介事に巻き込まれるのは望んではいなかった。
だから彼が送り迎えを了承したのは、実は彼女の為ではなかった。単に自分自身の為だったのだ。だがそれでも、結果として彼女や、彼女が他の児童に何かするようなことを未然に防げるのであれば、目的はそれほど重要ではないだろう。子供達の無事が担保されればそれでいいのだ。
しかも、彼自身にとっても興味深かったのは、この子供達が非常に大人しくて従順だったということだった。テレビなどではいかにも最近の子供は躾がなっていなくて傍若無人に振る舞うような印象を持たせることを言っていたが、実際にこうして見れば、多少は列が乱れたりすることはあっても皆大人しく黙々と歩いていた。むしろその大人しさが不気味なくらいだった。子供というのはもっとこう、覇気があると言えば聞こえはいいが、ただ活力が無秩序に外に溢れてきている騒々しいだけのものだったという印象があったのである。少なくとも自分が子供の頃はそんな感じだったような気がするのだがと、彼は思っていた。
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