神河内沙奈の人生

京衛武百十

文字の大きさ
上 下
23 / 111

初めてのランドセル

しおりを挟む
朝、ニュースを見ようとテレビを点けると、ちょうど子供達の通学風景の映像が流れていた。それを見て彼は、

「これを、こんな風に背負って学校に行くんだ」

と、ランドセルを彼女に向けて掲げつつ簡潔にそう言った。彼女はあからさまに警戒していたが、確かにテレビの中の子供達は同じものを背負っている。だから嫌々ながらも彼に背負わされるままに従った。それでもさすがにその姿自体は、一見しただけならどこから見ても小学生の女の子だった。

彼女はランドセルが気になるのか何度も首を回しそれを見ていたが、やがて特に何かが起こる訳ではないことを理解したらしく、今度はランドセルを背負ったまま部屋の中を行ったり来たりしていた。それは、彼女が不安を感じていたり気分が落ち着かない時にする行動だった。不具合がある訳ではないがやはり気にはなるようだ。

彼女の学校は、集団登校を行っていた。町内でいくつかのグループに分かれて集まり、まとまって登校する決まりになっていた。集合の時間の少し前、ケースワーカーの女性が訪れた。彼女と一緒に登校する為である。何しろ彼女は非常に特殊な状況にある児童なので、慎重の上にも慎重を期すことが望まれていた。

集団登校する為に集まっていた近所の子供達の前に、ケースワーカーの女性と神河内良久かみこうちよしひさに連れられた彼女が姿を現した。子供達も彼女もお互いに言葉もなく様子を窺っているのが分かった。

「今日から皆さんと一緒に吉泉きっせん小学校に通うことになった山下沙奈やましたさなさんです。仲良くしてあげてくださいね」

ケースワーカーの女性が明るく朗らかな感じでそう紹介したが、子供達は特に声を出して応えるでもなく、しかし頭は下げて一応の挨拶はしたのだった。そんな子供達に対して、ケースワーカーは、

「沙奈さんは、ちょっとお話とかが得意ではありません。ですからにこやか学級に通うことになります。よろしくお願いしますね」

にこやか学級とは、吉泉小学校における特別支援学級のことである。それを聞いた子供たちの間に、『ああ、なるほど』という空気が広がるのが分かった。それからはもう、誰も彼女のことを意識しないようにしているのが感じられた。変に馴れ馴れしくせず、かと言って冷淡な態度も見せず、子供なりに無難な距離感を保とうとしてる様子が見て取れた。

そんな光景を見て彼は、

『まるで調教された羊だな』

などと、ややシニカルな感想を持ったりもした。それでもこうして彼女の初めての登校が始まったのだった。 

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語

六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

処理中です...