神河内沙奈の人生

京衛武百十

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出会い

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藍繪汐治らんかいせきじの下での生活は、山下沙奈やましたさなにとっては意外と快適なものであったのかもしれない。あくまで、『彼女にとっては』だが。彼女のそれまでの境遇が過酷極まりないものだったから、それに比べればというだけである。

藍繪汐治に弄ばれつつも、彼女はそれを心地好いと感じていた。この状態が彼女にとっては一番安定していた。網螺春喜あみらはるきに比べても扱いは丁寧だし、食事も与えられ風呂にも入れてもらえた。

彼女は、風呂が好きだった。放っておけば何時間でも風呂に入っていた。風呂で藍繪汐治に弄ばれる時には特に心地良さそうにうっとりとした表情も見せた。もしかすると彼女は、彼女なりの幸せを感じていたのかもしれない。

だがそれは、結局は基準がおかしいからだというのも紛れもない事実だろう。そしてやはり、いつまでも続くようなことではなかった。

藍繪汐治の家に戻って四年が経過し、彼女は十二歳になっていた。しかも、成長そのものはまだ遅れていたがそれでも確実に変化は起こっていた。胸が僅かに膨らみ始め、脇の下や股間に明らかに単なる産毛ではない発毛が見られ始めたのである。するとその頃から急激に藍繪汐治が彼女を弄ぶ回数が減っていった。弄ぶにしても、殆ど体をいじることはなく、局部におざなりに触れて濡れ始めたと思えばペニスを挿入し、単純な注挿を繰り返しさっさと果てて彼女を放り出すという感じになっていた。

彼女の肉体の変化が、藍繪汐治の彼女への執着を奪い去っていったのだ。この男が求めているのは、胸の膨らみも毛もない無垢(こいつ基準で)な少女だったが故に。その為、第二次性徴期が始まってしまった彼女に対する興味が一気に失われてしまったのだった。

しかも、『学校に通ってないらしい子供がいる』という近所の人間の通報によって彼女を学校に通わせていないことが発覚。児童相談所などが訪ねてくるようになり、

「知らない。知り合いの家に預けてる」

とその度に誤魔化していたのも抗しきれなくなってきたと判断した彼は、彼女を本当に知り合いに預けてしまったのだった。

それは、藍繪汐治の同級生だった。元より社会生活においてもまっとうな人間関係など作れなかった彼の数少ない、辛うじて友人と言えるかも知れない人間だった。

その人物の名は、神河内良久かみこうちよしひさ

そんな彼も、陰鬱な目で相手を射るように見る、一見しただけでもおよそまっとうな人間ではないと分かる人物だった。

そしてこれが、新進気鋭の人形作家、神玖羅かみくらこと神河内良久と、後に彼の妻となる山下沙奈の運命的な出会いなのであった。 

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