オオカミ竜・ジャック ~心優しき猛獣の生き様~

京衛武百十

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戦わなければ殺される!

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成体おとな二匹、ほぼ成体おとなと変わらないもの一匹、幼体こどもに二匹の小さなレオンの群れにロボットが三機という状態で、『勝てる』と思って襲撃したというのに実際にはほぼ互角で、そこに<白い六本の脚を持った大きな虫のような何か>=アラニーズが加わり、さらには何匹ものレオンが加勢しては、もはや勝てる道理がなかった。

同時にそれは、

『戦わなければ殺される!』

という認識をもジャックに与えてしまった。

人間であればあまりにも愚かしいと思えるこの判断も、あくまで人間を基準にしたものでしかない。彼の判断も、必ずしも不自然なものではなかったし、レオンだけを相手にしていたならば、この時のレオンの殺気からすれば間違いではなかったと言えた。

あくまで彼の、理解の外、常識の外にいるロボットやアラニーズが相手だったからこそ判断に齟齬が生じてしまっただけにすぎない。

とことん『出会った相手が悪かった』にすぎないのだ。

その中でジャックを死力を尽くした。

彼と対峙したアラニーズは、新たにレオンが加わると同士討ちを避けるためか、自動小銃の弾倉を抜き、残った弾丸も空に向かって放った上で自動小銃を放り出し、ナイフに持ち替えた。

そしてジャックとともにアラニーズに立ち向かおうとしていた仲間達を次々倒していく。ジャック自身も傷を負っていく。

それでも彼は音を上げない。自分より遥かに大きなアラニーズを前にしても怯まない。アラニーズが鋭く振るうナイフを皮一枚で凌ぎ、血をにじませながらも立ち向かう。

そんな彼に、アラニーズも驚嘆の表情を浮かばせていた。普通ならもう何度もとどめを刺せているはずだった。にも関わらずジャックは他の仲間達にはできないステップを踏み、攻撃を躱してみせる。

これまでの経験で彼が独自に編み出したものだった。彼と同じことができるのは、ジョーカーの兄と、ジョーカーとクイーンの子供だけだった。

ジャックの動きの意味を理解できる知能を持ちそれを真似できる身体能力を持っている二頭だけだ。ジャックの子供達にも同じことができる可能性は確かにあったが、いかんせん彼のこの動きを間近で見ていたわけではないし、何より経験が足りない。

あくまで、『成長すればいつかは』という話である。

加えて、<手本>が必要か。完全にジャックと同等の能力を持つ者であれば、彼と同じように自ら生み出すこともできるかもしれないが。こればかりは子供達が実際に成長してみないと分からない。

そのためにも、ジャックは、生きるために戦う。選択は誤ってしまったかもしれないが、彼は決して死ぬために戦っているのではないのだ。

生きるために、生きるために、ただ生きるために。

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