オオカミ竜・ジャック ~心優しき猛獣の生き様~

京衛武百十

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蛮勇の報い

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そうしてジョーカーとクイーンの子供がレオンの幼体こどもに襲い掛かろうとしているのに合わせて、もう一頭の<オオカミ竜オオカミ幼体こども>も、やはりレオンの幼体こどもに襲い掛かろうとしていた。

しかしこちらは、体の大きさこそジョーカーとクイーンの子供とほぼ同じではあるものの、これまでにも何度も成体おとなに混じって戦った経験のあるジョーカーとクイーンの子供に比べると明らかに動きと言うか<狙い>が甘いのが見て取れた。相手の動きを読むことに慣れていないのだ。あくまで相手の動きを見てから自身の動きを決めているので、これでは追いつけない。相手が自分よりはるかに格下であったならそれでも通用したとしても、このレオンの幼体こどもも決して弱いわけではないのだから。

それでも、生き延びられるかどうかは時の運という面も確かにあるだろう。ジョーカーとクイーンの子供にしても、最初の頃はそんなものだった。才能はあったのかもしれないが、なによりもその時点で死ななかったから経験を積むことができただけだ。事実、この幼体こどもも動きそのものは決して悪くない。だから生き延びられれば同じようになれたかもしれない。

生き延びられれば……

そうだ。<運の強さ>も大きな要素になる。なにしろこの時、ジョーカーの兄を狙ったはずのゴムスタン弾が躱されて<流れ弾>となっただけだったのだから。

「ギャヒッッ!?」

狙っても当たらなかったそれが、オオカミ竜オオカミ幼体こどもの体を捉える。しかも当たり所が悪く、足の骨が砕かれてしまった。地面に転がり立ち上がろうとするものの当然動きは悪くなり、そこに、レオンの成体おとなが……

「ギャーッッ!!」

魂そのものが捩じ切られるかのような絶叫。首筋に牙を立てられ、狂ったようにもがいてももう逃れることはできなかった。

ゴリゴリゴギリ!!と頸椎が噛み砕かれていく。

仲間が助けようと飛び掛かるが、体が小さかったことでレオンの方も咥えたまま動くことができてしまった。

「ゲ……ゲ…ゲ……」

オオカミ竜オオカミ幼体こどもの目から光が消えていく。命が潰えていく。

『無謀だった!』

と批難するのは簡単だ。しかしジョーカーとクイーンの子供のような例もある。群れの仲間として力になろうとしたことの結果がこれだったからといって、蔑むのはどうかとは思わないか?

<蛮勇の報い>は、こうして自らが受けることになったのだから……

「グウウッッ!!」

指揮官機らしきロボットに対峙しつつも視界の端にその光景を捉えてしまったジャックは、悔しさのあまり呻いた。呻きつつも、完全には意識を逸らさなかったのだった。

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