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寂寥感
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「グヒ……ッ……ゲ……」
ボスはそう呻き声を上げつつ、痙攣していた。ジャックの口に、<死の気配>が伝わってくる。何度も何度も何度も何度も経験したものだ。このボスはこれで死ぬ。それが分かってしまう。
嬉しくはない。どちらかと言えば、何とも表現しがたい虚しさがあるだけだ。まるで、赤くて大きいのが地面の向こうに沈んでいく時のような……
けれど同時に、勝利したことは事実である。だから、
「グゥオオオオオオーッッ!!」
ボスの頭を踏みつけたまま体を逸らし、天に向かって雄叫びを上げた。自分の中に湧き上がってくる得体のしれない<何か>を吐き出そうとでもするかのようにして。
「……」
「……」
相手のオオカミ竜達もジャックの仲間達も、雷にでも打たれたかの如く動きを止める。勝敗が決したことを察したのだ。
これにより、ジャックが新しくこの群れのボスとなった。それはつまり、この場所に縄張りを得たということでもある。
結局、四頭の元々の仲間を失いながら……そのうちの一頭は、もちろん、<ジョーカーとクイーンの子供>である。
もっとも、すでに食われてしまい、死体すらほとんど残ってはいないが。
とは言え、それ自体はオオカミ竜として生きている限りは当然のこと。元々の仲間達を殺した者達を恨もうとも思わない。こちらだってボスの他に二頭を殺したのだから。
こうして、ジャックの群れは、成体二十七頭。幼体十八頭の大きなそれとなった。
さりとて安心はしていられない。ジャック達のようにこの地へと移動してきたのは他にもいる。
それでも今は、幼体達を群れの中心に集めてその姿を見て、ジャックはホッとするものを感じていた。ジョーカーとクイーンの子供はとうとう一頭だけになってしまったが、兄弟の死を悲しむ様子は特になく、ふてぶてしい様子で成体に混じって、死んだ者達の肉を貪っていた。
そうだ、当然のこととして、死んだ者達については、生き残った者達のための糧とする。ジャックも、元々の仲間達三頭の肉と、自分達と戦ったオオカミ竜の肉をそれぞれ一口ずつ食らい、自身に取り込んだ。
すると、地面に落ちていたものにジャックは気付き、それも口にした。小さな前脚だった。ジョーカーとクイーンの子供のであることは間違いなかった。これにより、ジョーカーとクイーンの子供もジャックに取り込まれ、彼の命の一部となった。
そうしているうちにも、またあの赤くて大きいものが地面へと沈んでいく。
「……」
ジャックはそれを見つめ、ただ立ち尽くしていた。まるでその赤いのが、死んだ者達を連れて行ってしまうかのような気分にさえなりつつ。
しかし、感傷に浸っている時間はない。今はこうして生き延びられたが、また空が明るくなるまで生きていられる保証などどこにもないのだ。
ボスはそう呻き声を上げつつ、痙攣していた。ジャックの口に、<死の気配>が伝わってくる。何度も何度も何度も何度も経験したものだ。このボスはこれで死ぬ。それが分かってしまう。
嬉しくはない。どちらかと言えば、何とも表現しがたい虚しさがあるだけだ。まるで、赤くて大きいのが地面の向こうに沈んでいく時のような……
けれど同時に、勝利したことは事実である。だから、
「グゥオオオオオオーッッ!!」
ボスの頭を踏みつけたまま体を逸らし、天に向かって雄叫びを上げた。自分の中に湧き上がってくる得体のしれない<何か>を吐き出そうとでもするかのようにして。
「……」
「……」
相手のオオカミ竜達もジャックの仲間達も、雷にでも打たれたかの如く動きを止める。勝敗が決したことを察したのだ。
これにより、ジャックが新しくこの群れのボスとなった。それはつまり、この場所に縄張りを得たということでもある。
結局、四頭の元々の仲間を失いながら……そのうちの一頭は、もちろん、<ジョーカーとクイーンの子供>である。
もっとも、すでに食われてしまい、死体すらほとんど残ってはいないが。
とは言え、それ自体はオオカミ竜として生きている限りは当然のこと。元々の仲間達を殺した者達を恨もうとも思わない。こちらだってボスの他に二頭を殺したのだから。
こうして、ジャックの群れは、成体二十七頭。幼体十八頭の大きなそれとなった。
さりとて安心はしていられない。ジャック達のようにこの地へと移動してきたのは他にもいる。
それでも今は、幼体達を群れの中心に集めてその姿を見て、ジャックはホッとするものを感じていた。ジョーカーとクイーンの子供はとうとう一頭だけになってしまったが、兄弟の死を悲しむ様子は特になく、ふてぶてしい様子で成体に混じって、死んだ者達の肉を貪っていた。
そうだ、当然のこととして、死んだ者達については、生き残った者達のための糧とする。ジャックも、元々の仲間達三頭の肉と、自分達と戦ったオオカミ竜の肉をそれぞれ一口ずつ食らい、自身に取り込んだ。
すると、地面に落ちていたものにジャックは気付き、それも口にした。小さな前脚だった。ジョーカーとクイーンの子供のであることは間違いなかった。これにより、ジョーカーとクイーンの子供もジャックに取り込まれ、彼の命の一部となった。
そうしているうちにも、またあの赤くて大きいものが地面へと沈んでいく。
「……」
ジャックはそれを見つめ、ただ立ち尽くしていた。まるでその赤いのが、死んだ者達を連れて行ってしまうかのような気分にさえなりつつ。
しかし、感傷に浸っている時間はない。今はこうして生き延びられたが、また空が明るくなるまで生きていられる保証などどこにもないのだ。
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