オオカミ竜・ジャック ~心優しき猛獣の生き様~

京衛武百十

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今は勝つしかない

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<本来のオオカミ竜オオカミの習性>にはないそれに、相手のボスは明らかに戸惑っていた。ここまでこれほど徹底して意表を突くようなそれは見たことがなかったのだろう。そこまで追い詰められた群れとは遭遇しなかったということか。

なるほどそうかもしれない。この群れに辿り着く前に、飢えたオオカミ竜オオカミの群れは互いに潰し合い、勝ち残った方は敗れた方を食らっているはずだからわずかにでも余裕が出てきている可能性はある。そういう諸々の偶然にも助けられたというのもあるだろうか。

しかし、それはあくまで、状況の不利をイーブンにまで押し上げただけでしかなかった。

No.2を殺され機先を制されたボスだったものの、さすがにここまで生き延びてきた群れを率いている個体だけあって、

「ガアアッッ!!」

すぐさま態勢を立て直し、ジャックに襲い掛かってきた。

「グアアッッ!!」

ジャックも奇襲が成功したことに驕ることなく迎え撃つが、

ガツン!!

と激しく頭突きを交わした瞬間に、

『強い!!』

と感じてしまった。体格ではジャックの方が有利だったものの、しっかり食べられていたことで体そのものの密度が違うとでも言うか、とにかく重く硬かった。体格のアドバンテージがなければこの一合で勝敗が決していたかもしれないくらいには。

十分に体が戻ってきていないのが悔やまれるものの、今さら泣き言を並べても相手は容赦してくれない。今は勝つしかない。負ければそれは<死>なのだから。

となれば、負けることなど考えない。勝つことだけを目指す。奇襲が成功したことで流れは掴んだ。後は踏ん張るだけだ。

体の強さは互角ではあっても、高い位置から攻撃を浴びせられるのは有利であるのは間違いない。しかも、ジャックは前脚(腕)を積極的に攻撃に使える。まるでボクシングのショートアッパーのように、食らい付こうと懐に入ってきたボスの顎を突き上げると同時に顎下に爪を立てる。

「ガッッ!?」

思わぬ攻撃に反射的に頭が下がったところに今度は覆いかぶさり、体重をかけていく。

「グアアッ!? ガアッ!?」

ボスはそんなジャックを跳ね除けようとしてもがく。しかしこれも、ジャックの策だった。こうやって体重をかけられると相手はついそれから逃れようとして無駄にもがく。もがけばそれだけ体力が奪われる。

真っ向ぶつかって圧倒できる時にはそうするが、今回は、体格差を活かしてようやく互角なのは分かってしまう。ならば策を弄することも厭わない。

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