オオカミ竜・ジャック ~心優しき猛獣の生き様~

京衛武百十

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ボスに従えない者が

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『自分の群れの幼体こどもを仲間が食った』

これは、ジャックにとってはとてもつらい現実だった。

確かに、幼体こどもを食ってでも生き延びようとする選択肢はあるだろう。それ自体は間違っていないのかもしれない。けれど、それを言うなら、幼体こどもを食い尽くしたことで次は成体おとな同士でも互いを食うために争った群れもあったように、

『お前を食って自分達は生き延びる』

という選択だってあるのだ。知能の高いジャックにはそれが分かってしまった。だから、自身の統率から外れた者を許すわけにはいかなかった。

「ゴアアッ!!」

幼体こどもを食った仲間を、ジャックは噛み殺した。向こうも抵抗しようとはしたが、そもそもジャックに勝てるならボスにもなれたに違いない。けれど今は自分がボスであり、

『ボスに従えない者が餌になれ』

と考えることも、ジャックにはできてしまった。

けれど、自分のやり方に従えなかった仲間の命を奪ったジャックは、

「グゥオオオオオオオオーッッ!!」

星空に向けて吠えた。とても悲し気な咆哮だった。自分の手で仲間を殺さなければいけなかったことが悲しかったのだ。

その仲間も、飢えて飢えて、正気を保つことができなくなっていたのだろう。だから自らが生き延びるために幼体こどもを食ったのだろう。それ自体は責められるべきことではないに違いない。けれど、やはりボスの意向に従えないのなら、群れに置いておくわけにはいかない。

そんなジレンマがつらかった。苦しかった。しかもその仲間は、最初からジャックについてきた者の一頭だった。ジョーカーの群れから合流した者でさえジャックの意向には従ってくれていたというのに……

『獲物さえいれば……』

心底そう思う。獲物さえいればここまでのことにはならなかったはずなのに。

自分が噛み殺した仲間の肉を一口食らって己の命の一部として取り込み、残りは他の仲間に分け与えた。本来ならボスであるジャックこそがしっかりと食べて力をつけなければいけないのだろうが、それ以上は食う気にはなれなかったのだ。

そしてこれは、本当に状況が厳しくなってきたことを示していたのだろう。いよいよジャックの統率さえ危うくなってきたという。

マズい。とにかくマズい。このままでは飢えで全滅する前に、仲間同士で殺し合うことになってしまう可能性が高い。ジャックにはそれが分かる。分かるのに、解決の糸口が見付からない。

必要なのは餌だ。答は単純明快なのだ。餌になる獲物がいないからこんなことになる。

けれど、その<獲物>があまりにも少ないのだ。

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