オオカミ竜・ジャック ~心優しき猛獣の生き様~

京衛武百十

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他の肉食獣

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こうして何とかテチチ竜テチチは退けたものの、やはり状況そのものは何一つ改善していなかった。餌が根本的に足りないのだ。しかも、他の肉食獣らも当然のごとく餌が不足しており、普段はそこまで関わり合いになることもない肉食獣とまで関わることになってしまっている。

獲物が豊富にいた時には、奪い合いになることもなかったというのに。

テチチ竜テチチと遭遇したのも、移動を続けたことでその生息域に入ってしまったことが直接の原因だった。

そして今度は……

何やら、奇妙な姿をした獣だった。後ろ足二本で立っているのは自分達と同じだが、尻尾もなく酷く頼りない感じの立ち姿をした獣だった。

カーキ色の毛皮に覆われ、頭には長い黒い毛が。

レオンと呼ばれる種族だった。同じく草原を主な生息地にしている獣ではあるもののジャックが生まれた辺りでは見掛けないそれだ。

体はテチチ竜テチチよりずっと大きいが、なんだか強そうには見えない。危険そうな印象はない。ただ、その目は鋭く険しくこちらを睨み付けてくる。

向こうもかなり飢えているのは察せられた。だからもう『そのつもり』なんだろう。

しかし、その時には襲ってこなかった。明らかに敵意は見えるものの、踵を返して去っていく。

ジャックの仲間達はそれを見て緊張を解いたが、ジャックだけは腑に落ちないものを感じていた。

『何かおかしい……』

得体のしれない不安感と不穏さが拭えなかったのだ。

とは言え、今日のところは休むことにする。

幼体こども達は虫を捕えて飢えをしのぎ、成体おとな達も同じように虫を捕えるものの、当然ながらまったく腹の足しにはならなかった。子供達はすでに十二頭にまで減っている。死んだのは、ほとんどが飢えに耐えられず、眠ったまま起きてこなかった者だ。そして死んだ幼体こども達は、生き延びた者達の糧となった。

死んだのは幼体こども達だけではない。成体おとなの数もすでに十五頭にまで減っている。こちらは猪竜シシや他のオオカミ竜オオカミの群れと戦った際に命を落とした者がほとんどだったが、ここから先もこの状態が続けば、成体おとな達にも飢えて死ぬ者が増えるだろう。

しかも、雌はもう卵を産まなくなってしまった。今の状況では幼体こどもなど育てられないからだと思われる。飢えが強いストレスになっているというのもある。ジャックがまだ縄張りを得られておらず頻繁に寝床を変えていた頃と同じだ。

日が暮れて空に星々が瞬き出すと、ジャックは思った。

『あのキラキラしたものが食べられれば、腹も膨れるだろうか……?』

と。

もちろん空の星は食べられるわけもないが、ついそんなことも思ってしまうほどに、星空の美しさとは裏腹に厳しい状況であった。

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