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数の暴力

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自分達の幼体こどもと変わらない大きさではありつつ圧倒的な数で一斉に襲い掛かってくるテチチ竜テチチの攻撃に、ジャックは怯まない。怯んでしまうと<数の暴力>に屈してしまうことが感覚的に分かっているのだろう。

だから、

『お前達の攻撃なんて効かない!!』

とばかりにひたすら叩き潰していく。するとそこに、

「ヂイッッ!!」

吠えながら突撃してきた小さな影。ジョーカーとクイーンの子供達であった。もう二頭しか残っていない子供達が、二頭とも突撃してきて。

「!?」

ジャックはそれを叱責しようとしたものの、思い直した。ここで士気を下げるような態度を自分が取っては、流れが変わってしまうかもしれない。だから敢えて二頭には好きにさせた。

それにジョーカーとクイーンの子供達は、テチチ竜テチチを上回る凶暴性を見せ、まるで怯むことなく襲い掛かった。そんな二頭に襲い掛かろうとするテチチ竜テチチを迎撃しつつ、二頭に任せる。

このことは、逆にテチチ竜テチチの連携を乱した。ジャックだけに襲い掛かればよかったところが標的が分散してしまったことで、ジャックへの攻撃が弱まってしまったのだ。

これは致命的だった。ただでさえ圧倒的な強さを見せていたジャックに<飽和攻撃>ができなくなった。ジャックもそれを見逃しはしなかった。

薙ぎ払い踏み潰し握り潰し噛み砕き。見る間にテチチ竜テチチを倒していく。

そして気付くと、ほとんどのテチチ竜テチチが地面に転がっていた。

熱狂していたことでテチチ竜テチチも引き際を逃してしまったのかもしれない。

一匹一匹は小さいので十分な食い応えはないものの、それでも飢えをしのぐ程度のことはできた。

しかもジャックは、健闘したジョーカーとクイーンの子供達にはしっかりと食べさせてやった。

確かに、下がっているように命じたのを破ったのは好ましくないものの、実際に倒してみせたのだ。それについては労わなければと思った。

もしこれで調子に乗ってしまって命を落としたとしても、元々、そういう気性の幼体こども達だ。だからそういう生き方をするということだろう。生き延びればそれでよし、生き延びられなければそれまでということでもある。

仲間で連携して敵や獲物に立ち向かう自分の子供達とは違っているものの、それはそれで構わない。どちらが正解というわけでもない。生き延びた者が勝者なのだ。

とにかくそれでいい。

なにより、この異常事態の中では、それこそ何が正解なのか分からない。あらゆる可能性を模索するしかないのだろう。

ジャックも何となくではあるもののそう思っていたのだった。

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