上 下
52 / 95

生き延びる能力

しおりを挟む
こうしてジョーカーもクイーンもジャック達の<糧>となって、自然の循環へと還っていく。

ただ、ジョーカーが自身の血縁に執着していなければもっとオオカミ竜オオカミとして平穏に暮らしていけたかもしれないと思うと、やはり残念というのもあるだろう。

一方、ジョーカーの仲間達の一部と子供達は生き延びて、ジャックの群れに加わることになった。

これにより、成体おとなニ十頭。幼体こども二十三頭というかなり大きな群れとなった。

しかし、ジャックのおかげで狩りの成功率が非常に高いこともあり、困ることはなかった。それどころか、群れを二つに分けてそれぞれで狩りに出ることさえあった。そちらのグループは、<ジョーカーの兄>がボス代理として率いる。

ジョーカーとの戦いで体中に傷跡が残ったものの、それを気にする者もいない。

加えて、ジョーカーとクイーンの子供達も、いささか凶暴な傾向はあったとはいえ、それはあくまで両親の振る舞い、特にクイーンの振る舞いが影響していただけで、明らかに両親の狂気そのものは受け継いでいなかった。だからか、元からジャックの群れで生まれた幼体こども達に対して乱暴だったりしたがジャックが間に入ってそれを仲裁しているうちに、ジョーカーとクイーンの子供達も圧倒的な強者であるジャックには従わざるを得ず、さらにはやがてジャックの振る舞いを真似るようになっていった。

遺伝的なそれだけですべてが決まってしまうわけでないという証拠だろう。そもそも、遺伝だけで決まるのならばジョーカーの兄はジョーカーと同じでなければおかしいはずである。

遺伝も環境も、それぞれが影響し合って結果に至るだけでしかない。

実際、ジョーカーとクイーンの子供達は、凶暴性が高く勇猛だったことで、狩りの才能は有望と言えた。イタチ竜イタチにさえ怯むことなく挑みかかり、仕留めてしまうこともあった。その一方で、やや無謀な面もあり、イタチ竜イタチに挑んで三頭が命を落としたりもした。対して元々ジャックの群れで生まれた幼体こども達は、イタチ竜イタチに挑んで死んだ者はいなかった。

無謀なことはせず、生き延びることを優先している結果だろう。そして強敵に挑む時には必ず仲間と連携して挑む。対してジョーカーとクイーンの子供達は、単独で挑もうとする傾向があった。

確かに個体の能力で言えばジョーカーとクイーンの子供達の方が強かったかもしれない。けれど、

<生き延びる能力>

で比べれば、ジャックの群れの幼体こども達の方が上だということだと思われる。

しおりを挟む

処理中です...