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群れ

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そうして力をつけていったジョーカーの前に、ある日、一頭の雄のオオカミ竜オオカミが現れた。群れから巣立った若い雄だった。

「ガアアッ!!」

「グアアッ!!」

本能がそうさせるのか、ジョーカーが口を大きく開けて威嚇すると、相手も口を大きく開けて競った。

すると、体格そのものは必ずしも圧倒しているわけでもないのに、ジョーカーの口の方が大きく開き、相手は怯んで引き下がった。どうやら<タガ>が外れていることで、本来なら無意識のうちに加減してしまうのが、ジョーカーはその加減がおかしくなっているようだ。顎が外れても強引に元に戻してしまうらしい。

これにより、仲間が一頭できた。すると立て続けに同じような雄と出会い、それらも仲間にしていった。中にはジョーカーよりも大きく口が開く者もいたが、それについてはジョーカーが怯まなかったことで引っ込みがつかなくなった相手が攻撃してきたのを力尽くで退けて、自分に下った者は仲間にしたものの、そうじゃない者が逃げなかった時にはそれこそ容赦なく殺した。

そんな風にして、ジョーカーは自身の群れを作っていった。

とは言え、この方法では雌が仲間に加わらない。雌がそういう形で巣立つことは滅多にないからだ。しかし『滅多にはない』ものの、『絶対にない』というわけでもない。

と、まるでジョーカーに引き寄せられるようにしてその<滅多にない事例>が訪れた。

若い雌が一頭でうろついていたのだ。その雌の名を仮に<クイーン>としよう。クイーンは、生まれつき頭のネジがいくつも外れているかのように凶暴な個体だった。後から孵ったにも関わらず先に孵った兄姉らにまで襲い掛かり、噛み殺してしまったりした。

もちろん反撃され、体の小さな彼女は集団で痛めつけられたが、そんなことでは懲りなかった。その後も何かある度に自分の仲間にさえ牙を剥いてはリンチを受けるという日々が続いた。

そして体が大きくなり強くなるほどにもう群れでは対処できないということで、ボスに追い出されたのである。彼女はボスの娘だったのでそこまでボスも我慢したものの、さすがに限界だったようだ。

これによりクイーンが加わり、すぐさまジョーカーはクイーンとの間に子を設けた。こうなると、他の雄達もジョーカーの娘と番うことができる可能性が出てきたことで、群れとしても成立し始めたのである。

そう、ジョーカーをボスとする新しい群れが誕生したのだ。しかし、この時点ではジョーカー達は、彼の母親らが属している群れの縄張り内に勝手に居ついているだけの存在であった。

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