オオカミ竜・ジャック ~心優しき猛獣の生き様~

京衛武百十

文字の大きさ
上 下
37 / 95

策略

しおりを挟む
尻尾の傷はその後もしばらく痛んだが、それがうずくたびに、ジョーカーは、仄暗い衝動を湧き上がらせていた。あのオオカミ竜オオカミをいつか食い殺してやるというそれだった。

とは言え、今の体格差ではどう頑張っても勝てる相手ではない。だから今はとにかく体を大きくしなければならなかった。

するとジョーカーは、土竜モグラだけでは物足りなくなってきて、今度はインパラ竜インパラを狙うようになった。

もっとも、さすがに成体おとなインパラ竜インパラが相手だと分が悪い。インパラ竜インパラの後脚の蹴りは、オオカミ竜オオカミ成体おとなでも当たり所が悪ければ死ぬことだった有り得るほどのものだ。捕食者プレデターから逃れるために獲得した脚力ゆえに。

となれば、まだ成体おとなとは言えないジョーカーではそれこそひとたまりもないだろう。

だから狙うは、幼体こどもインパラ竜インパラだ。

ただし、インパラ竜インパラ幼体こどもを守るために周囲を成体おとなで取り囲むため、むしろハードルは高い。しかし、チャンスはある。

それは、天敵に驚いて逃げる時だ。そういう時にはだいたい、陣形が崩れるし、加えて、ついていけない幼体こどもが出ることもある。問題はそんな風に都合よく他の捕食者プレデターが現れるかどうかということだが、ジョーカーはそこで一計を案じた。

土竜モグラを狩りつつ、同時に別のものを探す。そうして何度目かの土竜モグラの巣穴に近付いた時、ジョーカーはその巣穴に前足を突っ込んで、中にいたものを引きずり出した。

「ビイッ!! ビイイッッ!!」

イタチ竜イタチだった。土竜モグラの穴に潜り込んで土竜モグラを捕らえたイタチ竜イタチをさらにジョーカーが捕らえたのだ。

下手をすると自分も怪我をする危険な行いだったが。イタチ竜イタチが噛み付いてくる前に両前脚で首と腹を捉え、身動きできなくする。

何度かイタチ竜イタチの姿を見ていて、動きの封じ方を察したのだ。

だが、食うのではない。イタチ竜イタチを食ってもよかったのだが、もっと試したいことがあった。

そうしてイタチ竜イタチを捕まえたままでそろりそろりとインパラ竜インパラの群れに近付き、そして見張り役のインパラ竜インパラ目掛けてイタチ竜イタチを投げつけたのである。

イタチ竜イタチは、さすがにインパラ竜インパラまでは積極的に襲わないものの、不意に遭遇すると足などに噛み付いて大変な怪我を負わせることもあり、警戒するべき獣の一つだったのだ。

そのイタチ竜イタチが突然飛び付いてきたことにより、

「ケーッッ!!」

仲間に危険を知らせる声を上げつつ、逃げ出した。それに倣って群れも全力で逃げ出す。すると、生まれたばかりでまだ上手く走れないインパラ竜インパラの子がいて、取り残されてしまった。

なんという行幸。そして、インパラ竜インパラの子にとっては何という不運。

生まれてまだ一日と経っていなかったその子は、ジョーカーにとってはまたとない獲物となったのだった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

星鎧のギア・フィーネ〜追放先の惑星で神に育てられた少年に見初められまして~

古森きり
SF
気がつくと、私真佐美智葉は婚約者を奪われ、学会からも追放されたSFロボットアニメ『星鎧のギア・フィーネ』ヒロイン、ヒロナに憑依していた。 ヒロナは新惑星調査という危険な任務に一人で行かされることになる。 その惑星『RE・Earth《リ・アース》』で出会ったのはミュエル・ユオという先住民の生き残りの少年。 彼に「惑星再建のために僕の花嫁になって」と頼まれてしまう。 だが、中身は私だ。夢女子八年目の、厄介系オタクだ。 しかもヒロナはミュエルの目の前で死ぬヒロインだ。 私は死にたくない。 推しのミュエルの前で死ぬなんで冗談じゃない。 ヒロナの死でミュエルが覚醒して世界を滅ぼすストーリーも回避できて一石二鳥では!? これは全力で生き延びるしかないでしょ! 小説家になろう、カクヨム、アルファポリスに掲載。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

【THE TRANSCEND-MEN】 ー超越せし者達ー

タツマゲドン
SF
約138億年前、宇宙が生まれた。 約38億年前、地球で「生物」が誕生し長い年月を掛けて「進化」し始めた。 約600万年前、「知識」と「感情」を持つ「人類」が誕生した。 人類は更にそれらを磨いた。 だが人類には別の「変化」が起こっていた。 新素粒子「エネリオン」「インフォーミオン」 新物質「ユニバーシウム」 新兵器「トランセンド・マン」 21世紀、これらの発見は人類史に革命を起こし、科学技術を大いに発展させた。 「それ」は「見え」ない、「聞こえ」ない、「嗅げ」ない、「味わえ」ない、「触れ」られない。 しかし確実に「そこ」にあり「感じる」事が出来る。 時は「地球暦」0017年、前世紀の「第三次世界大戦」により人類の総人口は10億人にまで激減し、「地球管理組織」なる組織が荒廃した世界の実権を握っていた。 だがそれに反抗する者達も現れた。 「管理」か「自由」か、2つに分かれた人類はまたしても戦いを繰り広げていた。 戦争の最中、1人の少年が居た。 彼には一切の記憶が無かった。 彼には人類を超える「力」があった。 彼には人類にある筈の「感情」が無かった。 「地球管理組織」も、反抗する者達も、彼を巡って動き出す。 しかし誰も知らない。 正体を、目的を、世界を変える力がある事も。 「超越」せよ。 その先に「真実」がある。

めくるめく季節に、君ともう一度

雨ノ川からもも
青春
 生前、小さな悪事を積み重ねたまま死んでしまった瀬戸 卓也(せと たくや)は、地獄落ちを逃れるため、黒猫に転生する。  その自由さに歓喜したのもつかの間、空腹で行き倒れているところをひとりの少女に助けられ、そのまま飼われることに。  拾われて一ヶ月ほどが経った頃、ふたりにある不思議な出来事が起きて……? 君に出会って、大嫌いだった世界をちょっとだけ好きになれたんだ―― 春夏秋冬に起こる奇跡 不器用なふたりが織りなす、甘く切ない青春物語 ※他サイトにも掲載中。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜

早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。 食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した! しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……? 「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」 そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。 無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
よくよく考えると ん? となるようなお話を書いてゆくつもりです 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

処理中です...