上 下
34 / 95

どれほど強かろうといつかは必ず死ぬ

しおりを挟む
『上には上がいる』

これは決して動物同士の話とは限らない。<病気>であったり、<不運>であったり、そして何より、生き物はいずれ必ず死ぬ。<寿命>というものを持たない生物も中にはいると言うが、それらとて一つの個体が延々と生き続けるわけではないだろう。どこかで天敵に襲われたり、急激な環境の変化などで死んだりもする。

ましてやこの草原に生きる動物で、<命の期限>を持たない種はいない。どれほど強かろうといつかは必ず死ぬのだ。

その摂理に勝てる者はいない。

だからこそリスクの回避は重要なのだ。確実に勝てるとなれば苛烈に攻め、勝てる見込みがないとなれば早々に逃げる。

ジョーカーは、ここまで運よく生きてこられたからこそその道理を自ら悟ったようだ。

そしてそれは、同じオオカミ竜オオカミが相手でもそうだった。群れからはぐれた自分より確実に小さい幼体こどもなどがいれば、容赦なく襲って食った。

しかもその対象は、自分が本来いるはずだった群れの幼体こども達だった。

ジョーカーより先に卵から孵った兄姉達は明らかに強そうだったので手出しはしなかったものの、彼の後に生まれ体の小さいのが一頭でいると、見逃すことはなかった。

たとえ、同じ母から生まれた血を分けた弟妹であっても。

母親に対しては何とも言えない気分もあるものの、兄弟姉妹には、そんなものは一切感じない。それどころか、強い攻撃衝動しか湧いてこない。彼は無意識のうちに、見捨てられた自分と違って母親に守られている兄弟姉妹達を憎んでいたのかもしれない。

いや、本来ならそんな情動は存在しないはずなのだが。普通のオオカミ竜オオカミにそこまで複雑な情動はないはずなのだ。なのに、ジョーカーにはそれを思わせる仄暗い感情が備わっていた。

おそらく知能が高いのだろう。知能が高いがゆえに、具体的な思考ではなくともそれに近いことが考えられてしまうのかもしれない。

これはいわば、<ジャックの別の可能性>であったとも言えるのか。彼は、ジョーカーに比べればまだ比較的恵まれた幼少期を過ごしたことで、群れを守るために仲間を噛み殺したりという厳しい選択を迫られたりもしつつ、それでもなおジョーカーよりはマシだったと言えるのだろう。

このようにして生き延び成長した彼は、自分の方が確実に強くなったと実感できるとイタチ竜イタチも獲物とし始め、さらに体を大きくしていった。

加えて、獲物を捕らえられる確率が高くなると、それにより頑強な肉体も手に入れたのである。

それこそ、自分の兄姉達さえ凌ぐほどの。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

体内内蔵スマホ

廣瀬純一
SF
体に内蔵されたスマホのチップのバグで男女の体が入れ替わる話

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

謎の隕石

廣瀬純一
SF
隕石が発した光で男女の体が入れ替わる話

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

生まれきたる者 ~要らない赤ちゃん引き取ります~

京衛武百十
現代文学
『要らない赤ちゃん引き取ります』 そう記された怪しいサイトを真に受ける人間は、普通はいないだろう。けれど、そんな怪しさしかないサイトすら頼らずにいられない人間はいる。 そして今日も一人、そこに記された電話番号をダイヤルする者がいたのだった。 なろうの方で連載していたものを、こちらにも掲載することにしました。 筆者注:筆者自身も子を持つ親として自らを戒める為に書いているというのもありますので、親や大人にとっては非常に耳の痛い部分もあると思います。ご注意ください。

処理中です...