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どれほど強かろうといつかは必ず死ぬ

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『上には上がいる』

これは決して動物同士の話とは限らない。<病気>であったり、<不運>であったり、そして何より、生き物はいずれ必ず死ぬ。<寿命>というものを持たない生物も中にはいると言うが、それらとて一つの個体が延々と生き続けるわけではないだろう。どこかで天敵に襲われたり、急激な環境の変化などで死んだりもする。

ましてやこの草原に生きる動物で、<命の期限>を持たない種はいない。どれほど強かろうといつかは必ず死ぬのだ。

その摂理に勝てる者はいない。

だからこそリスクの回避は重要なのだ。確実に勝てるとなれば苛烈に攻め、勝てる見込みがないとなれば早々に逃げる。

ジョーカーは、ここまで運よく生きてこられたからこそその道理を自ら悟ったようだ。

そしてそれは、同じオオカミ竜オオカミが相手でもそうだった。群れからはぐれた自分より確実に小さい幼体こどもなどがいれば、容赦なく襲って食った。

しかもその対象は、自分が本来いるはずだった群れの幼体こども達だった。

ジョーカーより先に卵から孵った兄姉達は明らかに強そうだったので手出しはしなかったものの、彼の後に生まれ体の小さいのが一頭でいると、見逃すことはなかった。

たとえ、同じ母から生まれた血を分けた弟妹であっても。

母親に対しては何とも言えない気分もあるものの、兄弟姉妹には、そんなものは一切感じない。それどころか、強い攻撃衝動しか湧いてこない。彼は無意識のうちに、見捨てられた自分と違って母親に守られている兄弟姉妹達を憎んでいたのかもしれない。

いや、本来ならそんな情動は存在しないはずなのだが。普通のオオカミ竜オオカミにそこまで複雑な情動はないはずなのだ。なのに、ジョーカーにはそれを思わせる仄暗い感情が備わっていた。

おそらく知能が高いのだろう。知能が高いがゆえに、具体的な思考ではなくともそれに近いことが考えられてしまうのかもしれない。

これはいわば、<ジャックの別の可能性>であったとも言えるのか。彼は、ジョーカーに比べればまだ比較的恵まれた幼少期を過ごしたことで、群れを守るために仲間を噛み殺したりという厳しい選択を迫られたりもしつつ、それでもなおジョーカーよりはマシだったと言えるのだろう。

このようにして生き延び成長した彼は、自分の方が確実に強くなったと実感できるとイタチ竜イタチも獲物とし始め、さらに体を大きくしていった。

加えて、獲物を捕らえられる確率が高くなると、それにより頑強な肉体も手に入れたのである。

それこそ、自分の兄姉達さえ凌ぐほどの。

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