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命が持つ力そのもの

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ジョーカーは、分かっていてそうしたわけではなかった。ただひたすら無我夢中で自身の力のすべてを発揮しただけだ。諦めず、綺麗も汚いもない、自身の命が持つ力そのものを出し惜しみせず。

すると、相手がいつの間にか倒れていた。

「……?」

思いがけないその光景に、彼は戸惑いつつも自身が恐ろしい相手を退けたことを悟り、

「ヂャアアアアアーッ!!」

空に向けて口を大きく開き、吠えた。幼い体から発せられるそれは決して迫力はなかったものの、彼の魂の叫びだっただろう。

この命の瀬戸際を生き残ったことが、彼をさらに強くしたのかもしれない。倒したイタチ竜イタチの肉を食らい、己の命として取り込んでいく。普通に戦えば、ジョーカーが負けていて当然の相手だった。本来なら勝てる相手ではなかった。なのに勝ててしまった。

<弱肉強食>という言葉があるが、実はそれは必ずしも正しくない。単純な強さだけで決まるわけではない。強ければ有利なのは事実ではあるものの、厳密に言うのなら、

『生き残った方が勝者である』

というだけなのだ。大変な強さを持つ者でさえ、本当に些細なことで命を落とすこともあるのが自然というものだ。病気然り、事故然り。<虫歯>が原因で死ぬ者もいる。獲物として狙った相手の<ラッキーパンチ>のような一撃が切っ掛けで敗北することもある。

まさに今回のイタチ竜イタチのように。

それが<自然>というものであり、<命>というものなのだろう。弱いなら弱いなりに生き残る術を身に付ける者もいる。何をもって『強い』『弱い』とするかは、

『どこに視点を置くか?』

の違いでしかないのだ。

いずれにせよ、この草原においてはむしろ圧倒的な<弱者>でしかなかったジョーカーは、こうして生き延びてみせた。生き延びた者こそが<勝者>あることを自ら証明してみせた。

そんなジョーカーは、土竜モグラ狩りの際にも油断せず、穴の中に潜んでいるのが土竜モグラなのかイタチ竜イタチなのかを見分けることができるようになった。

イタチ竜イタチが潜んでいることに気付けば無理をせず、早々に逃げ去った。その辺りの切り替えの早さも、<生きる力>そのものだと言えるだろう。

『リスクの高い相手とは戦わない』

それも重要なのである。どれほど強かろうと、上には上がいる。この時点のジョーカーも、<オオカミ竜オオカミ幼体こども>としてみれば異例ともいえる強さを持っていただろうが、彼よりも強い獣はいくらでもいるのだ。それをわきまえなければ生き残れない。

そういうものである。

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