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すでに孤独
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だがそうやってジャック達が平穏に暮らしてはいても、この世界というものはやはりシビアだった。
ジャックは基本的に今の生活に満足していたものの、ジャックの群れも困ってはいなかったものの、そうじゃない者はやはりいるようだ。
「……」
刺すような気配を察し、ジャックはそちらに視線を向ける。その先には、かろうじてその姿が確認できるだけの距離に小さく見えながらも、明らかに強い敵意が感じ取れる何者かの姿があった、
オオカミ竜だ。他の群れのオオカミ竜の姿だった。こちらの縄張りの少し向こう。先頭にひときわ強い目線を向けてくる者がいる。そちらの群れのボスだった。名を仮にジョーカーとしよう。
ジョーカーは、他の群れに合流するのではなくて、群れを巣立った雄達を集めて自らの群れを作り、そして他の群れを襲って縄張りを奪うという形で勢力を拡大していたオオカミ竜だった。
その経緯を少し振り返ってみることにしよう。
ジョーカーは、卵から孵った時にはすでに孤独だった。彼を生んだ雌がいたはずの群れの姿はすでになく、彼がいた巣の中にも、すでに孵った兄姉達が残した卵の殻と、孵ることのなかった卵がいくつか残されていただけだった。
なかなか孵らなかったことで見捨てられたか、仲間はこの寝床を捨ててどこかに移動してしまったようだ。
「……」
しばらく周囲を見渡したり、少し歩き回って様子を窺ったが、他には誰もいなかった。
なのでジョーカーは、仕方なく、孵ることのなかった卵を爪でがりがりと掻いて割り、中身を貪った。しかもそのうちの一個は、どうやら孵化寸前に死んだらしい、ほぼ形が出来上がった兄弟の死骸が入っていた。しかしジョーカーはそれを気にするでもなく、やはり同じように貪り食った。
こうして生き延びたジョーカーは、次に昆虫を捕えて食うようになった。孵化したばかりの体ならそれでも持ち堪えられた。
けれど、二週間も経つと、虫だけでは物足りなってくる。そこで彼は、時々、地面に空いた穴から顔を出す奴を狙うことにした。そいつからは旨そうな匂いがしてくるのだ。
「ヂッ!!」
だがそいつは、ジョーカーが襲い掛かろうとすると穴の中に隠れてしまい、捕らえることができなかった。しかも、ただ待っているだけだといつ顔を出すか分からない。待っていて、でも腹が空いて耐え切れなくなって虫を捕えていたらその間に顔を出したりして、慌てて襲い掛かろうとすると間に合わなかった。
その獣は、<土竜>と呼ばれている。生涯のほとんどの土の中で暮らし、掘った土を地上に押し出すために時折地面から顔を出すのだった。
ジャックは基本的に今の生活に満足していたものの、ジャックの群れも困ってはいなかったものの、そうじゃない者はやはりいるようだ。
「……」
刺すような気配を察し、ジャックはそちらに視線を向ける。その先には、かろうじてその姿が確認できるだけの距離に小さく見えながらも、明らかに強い敵意が感じ取れる何者かの姿があった、
オオカミ竜だ。他の群れのオオカミ竜の姿だった。こちらの縄張りの少し向こう。先頭にひときわ強い目線を向けてくる者がいる。そちらの群れのボスだった。名を仮にジョーカーとしよう。
ジョーカーは、他の群れに合流するのではなくて、群れを巣立った雄達を集めて自らの群れを作り、そして他の群れを襲って縄張りを奪うという形で勢力を拡大していたオオカミ竜だった。
その経緯を少し振り返ってみることにしよう。
ジョーカーは、卵から孵った時にはすでに孤独だった。彼を生んだ雌がいたはずの群れの姿はすでになく、彼がいた巣の中にも、すでに孵った兄姉達が残した卵の殻と、孵ることのなかった卵がいくつか残されていただけだった。
なかなか孵らなかったことで見捨てられたか、仲間はこの寝床を捨ててどこかに移動してしまったようだ。
「……」
しばらく周囲を見渡したり、少し歩き回って様子を窺ったが、他には誰もいなかった。
なのでジョーカーは、仕方なく、孵ることのなかった卵を爪でがりがりと掻いて割り、中身を貪った。しかもそのうちの一個は、どうやら孵化寸前に死んだらしい、ほぼ形が出来上がった兄弟の死骸が入っていた。しかしジョーカーはそれを気にするでもなく、やはり同じように貪り食った。
こうして生き延びたジョーカーは、次に昆虫を捕えて食うようになった。孵化したばかりの体ならそれでも持ち堪えられた。
けれど、二週間も経つと、虫だけでは物足りなってくる。そこで彼は、時々、地面に空いた穴から顔を出す奴を狙うことにした。そいつからは旨そうな匂いがしてくるのだ。
「ヂッ!!」
だがそいつは、ジョーカーが襲い掛かろうとすると穴の中に隠れてしまい、捕らえることができなかった。しかも、ただ待っているだけだといつ顔を出すか分からない。待っていて、でも腹が空いて耐え切れなくなって虫を捕えていたらその間に顔を出したりして、慌てて襲い掛かろうとすると間に合わなかった。
その獣は、<土竜>と呼ばれている。生涯のほとんどの土の中で暮らし、掘った土を地上に押し出すために時折地面から顔を出すのだった。
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