オオカミ竜・ジャック ~心優しき猛獣の生き様~

京衛武百十

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恨み骨髄

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いくら知能が高くても、オオカミ竜オオカミであるジャックには、人間のようなメンタリティは備わっていない。我が子を食い殺されたからといって、

『恨み骨髄』

とまで言われるような心理状態にまでは至らない。至らないものの、子供を殺されたことには憤っていた。だからキングを食ったというのもある。キングに食われた我が子を自身に取り込もうとでもするかのように。

もちろん、そこまで複雑なことを考えていたわけではないだろうが、結果としてはそうなった形と言えるだろう。

なお、この時、キングの仲間達は、遠巻きに一部始終を見ていただけだった。キングが仲間を待機させていたのだ。ボスとして自らの手で裏切者を粛清するために。

が、結果としては、自分の方がジャックに敗れることになった。最後まであきらめはしなかったものの、届かなかったことも事実ではある。

「ウルルルルルル……」

自分達のボスだったキングを貪り食うジャックの姿を、何とも言えない印象のある音を喉を鳴らすことで立てつつも、襲い掛かってくるわけでもない。その者達からすれば、キングがボスだったからこそ従っていたものの、ジャックに負けたことでボスの座を失ったキングにはもう義理立てする理由もない。ないが、すぐに気持ちを切り替えるというのもさすがにできないので、そうやって割り切ろうとしているのだろう。

やがてキングの仲間、いや、<元仲間>達は、ジャックがキングの遺体から離れると近寄ってきて、皆でキングを貪り始めた。それが元仲間としての悼み方であった。



こうしてキングを倒したジャックがボスとなり、分かれていた群れを再び一つにしてみせた。

しかし今回のことで子供達の半数以上が死に、特にジャックの子供達は一頭も残らず、彼は、素直に勝利を喜ぶことができなかった。できなかったが、<ボスとしての役目>は待ってくれない。感傷に浸る時間を与えてはくれない。

また、キングの群れだった方は、分裂した時点では成体おとなばかり十一頭だったはずが、その後に生まれて生き延びた四頭はともかく、成体おとなの数が六頭にまで減っていた。これは、群れが分裂してほどなく猪竜シシの襲撃を受けて、半数近くの五頭が命を落としたからである。並の猪竜シシを大きく上回る強敵だった。かろうじて倒すことはできたものの、犠牲も大きかったということだ。

これにより、キングの群れに残った<キングの娘>は全員死亡。ジャックがいなくなったことで次の有力なボス候補とみられていた雄も亡くなり、群れは大きく弱体化していたのだった。

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