オオカミ竜・ジャック ~心優しき猛獣の生き様~

京衛武百十

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思った以上に自分が強くなっていて、逆にキングが弱くなっていたことに驚きつつも、ジャックは油断しなかった。自身の子供達を殺され食われてしまったことを激しく憎悪しつつも、頭の中は不思議と冷めていた。それはおそらく、目の前の戦いにまず注力し、確実に勝つことを優先しているからだろう。他のことはすべてが片付いてからでいい。そして、このまま一気に決めるために全力を傾ける。

しかし、キングの方も、退くわけにはいかなかった。そんな簡単に引けるなら、そもそもボスになどなっていない。

「ガアッ!!」

態勢を立て直し、大きく口を広げて食らい付こうとする。それをジャックは紙一重で躱し、逆にキングの首筋に噛み付こうとした。だがそれはキングの狙いだったようだ。キングとて、長くボスの座を維持した雄である。歳をとって肉体そのものはピークを過ぎたとしても、老獪さはむしろ磨かれていると言えただろう。

自身の首に食らい付こうとしたジャックの横顔に、ガツン!!と激しく自身の頭をぶつける。

「ギ……ッ!?」

これにはジャックも不意を突かれて怯んでしまう。そこにさらにキングが追撃。再度頭を彼の横っ面に叩き付ける。

「グ……ガッ……!」

そして間髪入れず今度は体を回転させて逆方向から尻尾を首筋に打ち付ける。人間でいえば回し蹴りのような攻撃だっただろう。ジャックの体が大きく泳ぐ。

なおもキングによる攻撃。

高く跳び上がり、鋭い爪を備えた両足でジャックの体を切り裂こうとする。

「!!」

だがそれは、大きな隙でもあった。体を回転させて爪を躱しつつ、空中に跳び上がったことで体の自由が利かなくなったキングに今度はジャックの尻尾が叩きつけられた。

「ガハッッ!?」

綺麗に脇腹に尻尾の一撃が入ったことで、キングの体はバランスを崩し、地面へと落ちる。そのチャンスを、ジャックは逃さなかった。キングの胴に足の爪を突き立てつつ押さえ付け、首筋へと食らい付く。

今度は確実にキングの首を捉えた。しかもジャックの足の爪はキングの腹を切り裂いて潜り込んでいく。

ボスの争いは、必ずしも相手の命を奪うことが目的じゃなかった。自分の方が強いことを示せればそれでよかったはずだった。それにより負けを悟った方はその場から去り、再起を図るか、もしくは一頭だけで生きていくかという選択肢が普通はあった。

だが今回は、<裏切者>であるジャックを粛清したいと考えるキングと、我が子を殺されたジャックの憤りが、悪い形で噛み合ってしまったのだろう。

戦いに勝つために冷静を装っていたジャックも、やはりその根底にはキングへの憎悪が渦巻いていたのだと思われる。

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