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油断している時にこそ
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なのに、<悲劇>というヤツは、油断している時にこそ訪れるもののようだ。
「グルウルッッ!!」
狩りのために寝床を離れていたジャックの耳に、仲間の尋常じゃない声が聞こえてきた。
「!?」
ハッとして振り返ると、そこには、幼体達を守るために寝床に残っていたはずの仲間の姿。しかし、三頭残してきたはずが二頭しかいない。しかも、幼体達の姿もない。
「グアッ!!」
「ギアアッッ!」
二頭の仲間は、明らかに動揺した様子で声を上げる。オオカミ竜には明確な<言語>というものはないが、緊急事態を表す鳴き方であることははっきりと伝わってくる。
「グウッッ!!」
ジャックは弾かれるようにして寝床がある方向へと走った。すると、しばらく行ったところで幼体達がこちらに向けて走ってくるのが見えた。成体の脚にはついていけなかったが、それでも必死に追ってきたのだろう。ジャックを見付けて、幼体達は縋りつくようにして彼の下に集まった。
けれど……
「ウウウ……?」
ジャックが呻る。幼体達の数が少なすぎる。しかも、彼の子の姿が一つもない。
「グアッ!!」
追いついてきた仲間達に幼体達を任せ、ジャックはさらに走った。寝床に向けて。だが、ようやくたどり着いた時に彼が見たのは、血塗れの寝床と、幼体達のものと思われる遺体の一部。そして、
『キング……!』
幼体を咥え、ガシガシと噛み砕いているキングの姿だった。
普通のオオカミ竜にとっては、<他所の群れの子>など、餌に過ぎない。加えてキングにとっては、自分に歯向かい勝手に群れを出て行った<裏切者>だ。幼体達を守るために残っていた成体達がかつて自分を裏切った者達であることにキングは気付いたのだ。だから襲った。容赦なく。ジャックの子達も、すべて、キングに食われてしまったのである。
「グウウアアアアアーッッ!!」
それを悟ったジャックは、途轍もない咆哮を上げ、奔った。キングに向けて。それを、
「ガアアアアッ!!」
キングも迎え撃つ。だが、
『キングと戦おう。戦って縄張りを奪おう』
と決心できるほどに成長した若いジャックと、その間に歳を取ったキングとの間には、ジャック自身が想定していた以上の開きができていたようだった。
頭を下げて突撃した彼を、やはり頭を下げて受け止めたキングの体が、ガツン!という衝撃と共に下がる。
その時、ジャックは悟った。
『勝てる!』
と。だからこそ悔しかった。自分がもっとはやく決断し、キングに戦いを挑んでいればこの結果はなかったのかもしれないと。
だからこそ許せなかった。決断の遅い自分自身が。その憤りを、彼はキングへとぶつけたのだった。
「グルウルッッ!!」
狩りのために寝床を離れていたジャックの耳に、仲間の尋常じゃない声が聞こえてきた。
「!?」
ハッとして振り返ると、そこには、幼体達を守るために寝床に残っていたはずの仲間の姿。しかし、三頭残してきたはずが二頭しかいない。しかも、幼体達の姿もない。
「グアッ!!」
「ギアアッッ!」
二頭の仲間は、明らかに動揺した様子で声を上げる。オオカミ竜には明確な<言語>というものはないが、緊急事態を表す鳴き方であることははっきりと伝わってくる。
「グウッッ!!」
ジャックは弾かれるようにして寝床がある方向へと走った。すると、しばらく行ったところで幼体達がこちらに向けて走ってくるのが見えた。成体の脚にはついていけなかったが、それでも必死に追ってきたのだろう。ジャックを見付けて、幼体達は縋りつくようにして彼の下に集まった。
けれど……
「ウウウ……?」
ジャックが呻る。幼体達の数が少なすぎる。しかも、彼の子の姿が一つもない。
「グアッ!!」
追いついてきた仲間達に幼体達を任せ、ジャックはさらに走った。寝床に向けて。だが、ようやくたどり着いた時に彼が見たのは、血塗れの寝床と、幼体達のものと思われる遺体の一部。そして、
『キング……!』
幼体を咥え、ガシガシと噛み砕いているキングの姿だった。
普通のオオカミ竜にとっては、<他所の群れの子>など、餌に過ぎない。加えてキングにとっては、自分に歯向かい勝手に群れを出て行った<裏切者>だ。幼体達を守るために残っていた成体達がかつて自分を裏切った者達であることにキングは気付いたのだ。だから襲った。容赦なく。ジャックの子達も、すべて、キングに食われてしまったのである。
「グウウアアアアアーッッ!!」
それを悟ったジャックは、途轍もない咆哮を上げ、奔った。キングに向けて。それを、
「ガアアアアッ!!」
キングも迎え撃つ。だが、
『キングと戦おう。戦って縄張りを奪おう』
と決心できるほどに成長した若いジャックと、その間に歳を取ったキングとの間には、ジャック自身が想定していた以上の開きができていたようだった。
頭を下げて突撃した彼を、やはり頭を下げて受け止めたキングの体が、ガツン!という衝撃と共に下がる。
その時、ジャックは悟った。
『勝てる!』
と。だからこそ悔しかった。自分がもっとはやく決断し、キングに戦いを挑んでいればこの結果はなかったのかもしれないと。
だからこそ許せなかった。決断の遅い自分自身が。その憤りを、彼はキングへとぶつけたのだった。
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