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自分が弱いからだと

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『こんな形で死ぬのはそれは弱かったからだと、生きる力がなかったからだと、オオカミ竜オオカミなら考える』

それは確かにそうなのだが、そもそも無理にキングの群れから離脱しなければ最初からこんなことにはならなかっただろう。

そしてさらに二頭の幼体こどもが死んだ。一頭は、ジャック達が狩りに出ている間に土竜モグラの穴に潜んでいたイタチ竜イタチに襲われ、もう一頭はやはりストレスのためか突然死してしまった。

キングの群れにいた頃には、普通なら半数が死ぬところを七割生き延びさせたというのに、今度はむしろ普通より早いペースで幼体こども達が死んでいく。

ジャックはそれを自分が弱いからだと考え、『早く強くならなければ』と感じていた。なのに仲間達は、あまり深刻に受け止めていない。

『ジャックについていけば何とかなる』

ただそう考えているようだった。

確かに、ジャックは確実に狩りを成功させる。彼の指揮の下で狩りを行えば、普通は二割から三割程度の成功率が、五割近くまで跳ね上がった。だから食べるものには困らなかった。

ジャックの指揮に従っている限りは。

しかしそれは。ジャックにすべての責任を押し付けている形でもある。彼が、キングの群れの狩りとはバッティングせずにしかも確実に獲物が捕らえられる狩場を考え、狩りそのものも指揮し、さらに狩りを終えれば今度は子供達に土竜モグラ狩りの指導をしなければならなかった。

『ジャックに任せておけば何とかなる』

仲間達はやはりそう考えているのだ。けれどジャック自身は、そんな仲間達を見捨てなかった。とにかく自分が頑張ればいいのだと考えて。

そうして月日が過ぎていく。一ヶ月。二ヶ月。三ヶ月。キング達の群れだけでなく、猪竜シシのような強敵にも遭遇しないように、ジャックはひたすら頭を振り絞った。常に周囲を警戒し、猪竜シシの姿を見付けると、群れを率いて一目散に逃げた。戦って勝てたとしてもそれで犠牲が出ては意味がない。

だがそんなある日、ジャック達の前に一頭の若い雄のオオカミ竜オオカミが現れた。どうやら他の群れから巣立った個体のようだった。

「ウルルルルルル」

「グルルルルルル」

群れの中までなければ、同じオオカミ竜オオカミであっても味方とは限らない。むしろ、幼体こども達にとっては<天敵>でさえある。他の群れの幼体こどもを襲って食べてしまうことは、別に珍しくないのだ。

だからジャックは、幼体こども達を守るために立ちはだかった。さらにその上で、ぐあっと口を大きく開け、自身の力を鼓舞した。オオカミ竜オオカミの場合、口の大きさも強さの象徴だった。だからこそ体の大きな個体は有利になる。

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