オオカミ竜・ジャック ~心優しき猛獣の生き様~

京衛武百十

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僕はこんな姿なのか

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さらにジャックは、水面に映る自分の姿を、<自分>であると早々に理解していた。他の仲間達の中には、水の中に見知らぬオオカミ竜オオカミがいるのを見て威嚇したり驚いたりすることもある。

もっとも、顔が綺麗に映るほどの静かな水面自体がそうそうないので、そんなことはあまり起こらないが。

『僕はこんな姿なのか。みんなと同じだ』

必ずしも明確な思考ではないものの、それに近いことをジャックは考えていたようだ。だからこそ余計に、<仲間>というものを意識しているのかもしれない。

そして自分より小さくて非力な弟妹達を大切にした。

すると弟妹達もジャックに懐いた。成体おとな達に対して以上に。成体おとな達が幼体こども達に指示してもすぐには言うことを聞かないのに、ジャックが指示するとすぐに従ってくれた。成体おとな達にとっても、ジャックの存在はありがたかったようだ。

ある時、兄弟の間で何やら些細なことが切っ掛けでケンカになった時にも、成体おとな達が諫めても止まらなかったのが、ジャックが、

「グアッ!」

と一声発するだけで収まったりもした。そしてケンカをした弟達に対しても、ケンカが収まれば優しく接してくれた。

またある時には、土竜モグラ狩りをしていた幼体こどもが、土竜モグラの穴に潜んでいたイタチ竜イタチの逆襲を受けて危険に陥ると颯爽と駆け付けてイタチ竜イタチに食らい付いた上で地面に叩き付け、胴を足で押さえ付けて引きちぎり、倒してみせたりもした。

ラーテル竜ラーテルではなかったのは幸いだったが、もう普通のイタチ竜イタチではジャックにはまったく敵わなかった。

しかも、成体おとなと違って幼体こども達と一緒にいることが多いので、真っ先に駆け付けることができた。幼体こども達にとっては、ジャックの姿はそれこそ英雄のように頼もしかったに違いない。



さらに一年が過ぎ、ジャックの体はこの時点でもう成体おとなとほとんど変わらなくなっていた。普通ならこの大きさになるには三年ほどかかるところを、ジャックは二年で達してみせたのである。

その上、ジャックは知能も高かったため、すでに成体おとな以上の働きができていたとも言えるだろうか。

狩りでも、ジャックはインパラ竜インパラや、インパラ竜インパラの近似種のガゼル竜ガゼルの習性を理解して、その群れで最も優れた<見張り役>をしている者を見抜き、それの死角になる位置から群れに接近、動きの鈍い個体を確実に見分け、十分に近付いたところでわざと仲間を見張り役に発見させ、

「ケーッ!!」

と警告音を上げて逃げ出した先で狙っていた個体を待ち構えて首を確実に捉え引き倒し、一撃で首の骨を砕いて仕留めるという手法を編み出したのだった。

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