11 / 95
命をいただく
しおりを挟む
老いて生きるための力が衰えたとはいえ、野生の獣はそんなことでは生きることを諦めない。生きるためにその時点でできるすべてをやろうとする。これは、猪竜でもインパラ竜でも変わらない。
オオカミ竜すら一撃で蹴り殺すこともある後脚の一撃をお見舞いしようとして、老インパラ竜は全力を尽くす。
それは当たり前のことだった。だからオオカミ竜達も油断はしない。食らい付いたオオカミ竜もインパラ竜の蹴りを食らうまいとして身を躱す。そこに次々とオオカミ竜が食らい付く。
それでもなお、老インパラ竜は生きるための努力をする。
<潔い引き際>
など、人間がでっち上げた戯言だというのがよく分かる光景だった。野生において<潔い引き際>というのも、あくまで生きるためにすることである。『戦って勝てないと悟ればさっさと逃げる』というような場合にのみ意味を持つ。
しかし、諦めればそのまま死が待っている状況では、『潔く』などしない。文字通り死力を振り絞って死に抗う。生きるために。
だがそれは常に功を奏すとは限らない。ましてやそのための力がそもそも衰えてきているとなれば、さらに確率は下がる。加えて、インパラ竜の群れは、仲間が捉えられたことでもう自分達には危険が及ばないと悟り、悠々と逃げ去ってしまった。
残酷なようだが、これもまた<生きる>ということなのだろう。
生きるためには他の命をいただくが、それは必ずしも直接食うことを意味するものではない。このようにして、
『自分以外の誰かが死ぬことにより自分の命を繋ぐ』
というのも『命をいただく』と言えるのだ。
インパラ竜の群れは、『仲間の命をいただく』ことで生き延びたわけだ。
そして実際、老インパラ竜は、死力を振り絞ってもなお、自身の命を繋ぐことができなかった。
老いて生き延びる力を失ったことにより、仲間の代わりにオオカミ竜に捕らえられ、結果、仲間の命を繋いだのである。
残酷ではあるものの、これもまた生きるということの現実。
また、この時のインパラ竜については、やや痩せた小柄な個体だったこともあり、ジャックの群れ全体の腹を満たすことはできなかった。成体達が食べ終わった時点でほとんど食うところがなくなってしまっていたのだ。
ただしこれについては、幼体だからこその<次善の策>もある。
特に体が小さい子供は、その辺りを跳ねまわっている<虫>を餌にすれば事足りるし、少し大きな子供達も、それぞれ勝手に、土竜の穴を掘り起こし、それを捕えて餌にしていたのだった。
オオカミ竜すら一撃で蹴り殺すこともある後脚の一撃をお見舞いしようとして、老インパラ竜は全力を尽くす。
それは当たり前のことだった。だからオオカミ竜達も油断はしない。食らい付いたオオカミ竜もインパラ竜の蹴りを食らうまいとして身を躱す。そこに次々とオオカミ竜が食らい付く。
それでもなお、老インパラ竜は生きるための努力をする。
<潔い引き際>
など、人間がでっち上げた戯言だというのがよく分かる光景だった。野生において<潔い引き際>というのも、あくまで生きるためにすることである。『戦って勝てないと悟ればさっさと逃げる』というような場合にのみ意味を持つ。
しかし、諦めればそのまま死が待っている状況では、『潔く』などしない。文字通り死力を振り絞って死に抗う。生きるために。
だがそれは常に功を奏すとは限らない。ましてやそのための力がそもそも衰えてきているとなれば、さらに確率は下がる。加えて、インパラ竜の群れは、仲間が捉えられたことでもう自分達には危険が及ばないと悟り、悠々と逃げ去ってしまった。
残酷なようだが、これもまた<生きる>ということなのだろう。
生きるためには他の命をいただくが、それは必ずしも直接食うことを意味するものではない。このようにして、
『自分以外の誰かが死ぬことにより自分の命を繋ぐ』
というのも『命をいただく』と言えるのだ。
インパラ竜の群れは、『仲間の命をいただく』ことで生き延びたわけだ。
そして実際、老インパラ竜は、死力を振り絞ってもなお、自身の命を繋ぐことができなかった。
老いて生き延びる力を失ったことにより、仲間の代わりにオオカミ竜に捕らえられ、結果、仲間の命を繋いだのである。
残酷ではあるものの、これもまた生きるということの現実。
また、この時のインパラ竜については、やや痩せた小柄な個体だったこともあり、ジャックの群れ全体の腹を満たすことはできなかった。成体達が食べ終わった時点でほとんど食うところがなくなってしまっていたのだ。
ただしこれについては、幼体だからこその<次善の策>もある。
特に体が小さい子供は、その辺りを跳ねまわっている<虫>を餌にすれば事足りるし、少し大きな子供達も、それぞれ勝手に、土竜の穴を掘り起こし、それを捕えて餌にしていたのだった。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
鋼月の軌跡
チョコレ
SF
月が目覚め、地球が揺れる─廃機で挑む熱狂のロボットバトル!
未知の鉱物ルナリウムがもたらした月面開発とムーンギアバトル。廃棄された機体を修復した少年が、謎の少女ルナと出会い、世界を揺るがす戦いへと挑む近未来SFロボットアクション!
女豹の恩讐『死闘!兄と妹。禁断のシュートマッチ』
コバひろ
大衆娯楽
前作 “雌蛇の罠『異性異種格闘技戦』男と女、宿命のシュートマッチ”
(全20話)の続編。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/329235482/129667563/episode/6150211
男子キックボクサーを倒したNOZOMIのその後は?
そんな女子格闘家NOZOMIに敗れ命まで落とした父の仇を討つべく、兄と娘の青春、家族愛。
格闘技を通して、ジェンダーフリー、ジェンダーレスとは?を描きたいと思います。
200万年後 軽トラで未来にやってきた勇者たち
半道海豚
SF
本稿は、生きていくために、文明の痕跡さえない200万年後の未来に旅立ったヒトたちの奮闘を描いています。
最近は温暖化による環境の悪化が話題になっています。温暖化が進行すれば、多くの生物種が絶滅するでしょう。実際、新生代第四紀完新世(現在の地質年代)は生物の大量絶滅の真っ最中だとされています。生物の大量絶滅は地球史上何度も起きていますが、特に大規模なものが“ビッグファイブ”と呼ばれています。5番目が皆さんよくご存じの恐竜絶滅です。そして、現在が6番目で絶賛進行中。しかも理由はヒトの存在。それも産業革命以後とかではなく、何万年も前から。
本稿は、2015年に書き始めましたが、温暖化よりはスーパープルームのほうが衝撃的だろうと考えて北米でのマントル噴出を破局的環境破壊の惹起としました。
第1章と第2章は未来での生き残りをかけた挑戦、第3章以降は競争排除則(ガウゼの法則)がテーマに加わります。第6章以降は大量絶滅は収束したのかがテーマになっています。
どうぞ、お楽しみください。
No One's Glory -もうひとりの物語-
はっくまん2XL
SF
異世界転生も転移もしない異世界物語……(. . `)
よろしくお願い申し上げます
男は過眠症で日々の生活に空白を持っていた。
医師の診断では、睡眠無呼吸から来る睡眠障害とのことであったが、男には疑いがあった。
男は常に、同じ世界、同じ人物の夢を見ていたのだ。それも、非常に生々しく……
手触り感すらあるその世界で、男は別人格として、「採掘師」という仕事を生業としていた。
採掘師とは、遺跡に眠るストレージから、マップや暗号鍵、設計図などの有用な情報を発掘し、マーケットに流す仕事である。
各地に点在する遺跡を巡り、時折マーケットのある都市、集落に訪れる生活の中で、時折感じる自身の中の他者の魂が幻でないと気づいた時、彼らの旅は混迷を増した……
申し訳ございませんm(_ _)m
不定期投稿になります。
本業多忙のため、しばらく連載休止します。
アルファポリスとカクヨムってどっちが稼げるの?
無責任
エッセイ・ノンフィクション
基本的にはアルファポリスとカクヨムで執筆活動をしています。
どっちが稼げるのだろう?
いろんな方の想いがあるのかと・・・。
2021年4月からカクヨムで、2021年5月からアルファポリスで執筆を開始しました。
あくまで、僕の場合ですが、実データを元に・・・。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
Solomon's Gate
坂森大我
SF
人類が宇宙に拠点を設けてから既に千年が経過していた。地球の衛星軌道上から始まった宇宙開発も火星圏、木星圏を経て今や土星圏にまで及んでいる。
ミハル・エアハルトは木星圏に住む十八歳の専門学校生。彼女の学び舎はセントグラード航宙士学校といい、その名の通りパイロットとなるための学校である。
実技は常に学年トップの成績であったものの、ミハルは最終学年になっても就職活動すらしていなかった。なぜなら彼女は航宙機への興味を失っていたからだ。しかし、強要された航宙機レースへの参加を境にミハルの人生が一変していく。レースにより思い出した。幼き日に覚えた感情。誰よりも航宙機が好きだったことを。
ミハルがパイロットとして歩む決意をした一方で、太陽系は思わぬ事態に発展していた。
主要な宙域となるはずだった土星が突如として消失してしまったのだ。加えて消失痕にはワームホールが出現し、異なる銀河との接続を果たしてしまう。
ワームホールの出現まではまだ看過できた人類。しかし、調査を進めるにつれ望みもしない事実が明らかとなっていく。人類は選択を迫られることになった。
人類にとって最悪のシナリオが現実味を帯びていく。星系の情勢とは少しの接点もなかったミハルだが、巨大な暗雲はいとも容易く彼女を飲み込んでいった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる