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傷病
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強敵である猪竜を、犠牲も出さずに仕留められたことは、大変に幸運だった。とは言え、その幸運に酔いしれている余裕はない。ジャック達が暮らすそこは、大自然の真っただ中。死は常に隣り合わせなのだ。
そしてそれは、<外敵に襲われる>的な危険ばかりとは限らない。
猪竜を倒したその日の夕方、やや高齢に差し掛かってはいたもののまだ<寿命>には間があったはずの一頭が、突然、意識を失って倒れた。
移動中なら放っておくところだったが、この時は群れ全体で休んでいたところだったこともあり、仲間が集まってくる。ジャックも心配そうに「ルルル」と喉を鳴らしながら見ていた。
だが、残念ながらできることは何もない。一頭が揺り起こそうと手で体を揺するが、ビクッビクッと痙攣するばかりで起き上がる気配はない。そもそも意識もなさそうだ。
<脳出血>だった。実は倒れた一頭は、猪竜に最初に食らい付いて振り飛ばされたオオカミ竜だった。その際に地面で強く頭を打ち、それをきっかけに脳出血を起こしていたようだ。そして出血の量が一定量を超えて脳を圧迫、重大な影響を及ぼしたのである。
けれど、オオカミ竜にはそれに対処する術がない。脳出血であるという認識もない。ただ、立ち上がらせようと掴み上げたり揺すったりするだけだ。しかし、脳出血の場合は、下手に動かすとかえって状況が悪くなる場合もある。そして今回がまさにそれだった。
動かしたことでさらに出血が進み、脳の機能が損なわれていく。
こうして、倒れてからわずか十分ほどで、そのオオカミ竜の心臓は鼓動を刻むのをやめてしまった。
人間の場合、適切な形で救急対応が行われれば助かる確率もある事例だった。だが、オオカミ竜にはそのような対処はできない。できないから救いようがない。
これもまた、<すぐ傍にある死の形>と言えるだろう。猪竜に直接殺されたわけではないのでオオカミ竜達にとってはその関連性は理解できない。わけも分からず仲間が急に倒れただけで。
こうしてわずか二日の間に三頭の仲間が死んだ。それでも、オオカミ竜達は狼狽えない。そういうものだからだ。
加えて、幼体達は順調に育っている。さらにまた、発情期が訪れれば新たに卵を産み、幼体が誕生するだろう。ジャックも後二~三年で立派なオオカミ竜の成体に育つはずだ。
生きていればだが。
幼体のオオカミ竜が成体になれる確率は、三割程度。外敵に襲われたり、病気などで七割ほどが命を落とす。大変に過酷な境遇だ。
そして成体になれたからといって危険が減るわけでもない。
<死そのものが日常の一部>
と言ってもいいのかもしれない。
そしてそれは、<外敵に襲われる>的な危険ばかりとは限らない。
猪竜を倒したその日の夕方、やや高齢に差し掛かってはいたもののまだ<寿命>には間があったはずの一頭が、突然、意識を失って倒れた。
移動中なら放っておくところだったが、この時は群れ全体で休んでいたところだったこともあり、仲間が集まってくる。ジャックも心配そうに「ルルル」と喉を鳴らしながら見ていた。
だが、残念ながらできることは何もない。一頭が揺り起こそうと手で体を揺するが、ビクッビクッと痙攣するばかりで起き上がる気配はない。そもそも意識もなさそうだ。
<脳出血>だった。実は倒れた一頭は、猪竜に最初に食らい付いて振り飛ばされたオオカミ竜だった。その際に地面で強く頭を打ち、それをきっかけに脳出血を起こしていたようだ。そして出血の量が一定量を超えて脳を圧迫、重大な影響を及ぼしたのである。
けれど、オオカミ竜にはそれに対処する術がない。脳出血であるという認識もない。ただ、立ち上がらせようと掴み上げたり揺すったりするだけだ。しかし、脳出血の場合は、下手に動かすとかえって状況が悪くなる場合もある。そして今回がまさにそれだった。
動かしたことでさらに出血が進み、脳の機能が損なわれていく。
こうして、倒れてからわずか十分ほどで、そのオオカミ竜の心臓は鼓動を刻むのをやめてしまった。
人間の場合、適切な形で救急対応が行われれば助かる確率もある事例だった。だが、オオカミ竜にはそのような対処はできない。できないから救いようがない。
これもまた、<すぐ傍にある死の形>と言えるだろう。猪竜に直接殺されたわけではないのでオオカミ竜達にとってはその関連性は理解できない。わけも分からず仲間が急に倒れただけで。
こうしてわずか二日の間に三頭の仲間が死んだ。それでも、オオカミ竜達は狼狽えない。そういうものだからだ。
加えて、幼体達は順調に育っている。さらにまた、発情期が訪れれば新たに卵を産み、幼体が誕生するだろう。ジャックも後二~三年で立派なオオカミ竜の成体に育つはずだ。
生きていればだが。
幼体のオオカミ竜が成体になれる確率は、三割程度。外敵に襲われたり、病気などで七割ほどが命を落とす。大変に過酷な境遇だ。
そして成体になれたからといって危険が減るわけでもない。
<死そのものが日常の一部>
と言ってもいいのかもしれない。
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