オオカミ竜・ジャック ~心優しき猛獣の生き様~

京衛武百十

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弟妹

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比較的幼体こどもの面倒を見ると言える種であるオオカミ竜オオカミとは言え、幼体こどもの内から弟妹の面倒まで見るのは珍しいと言えるだろう。

しかし現にジャックは、弟妹達の面倒を見た。勝手に群れを離れようとする者がいれば連れ戻し、自分が捕えはしたものの腹が減ってなかった時には獲物を分け与えもした。

オオカミ竜オオカミは、オオカミに生態は似てはいても、<情>の面ではやはりオオカミとはかなり違っていて、冷淡な面は目立つ。

老いた仲間がついてこれなくなれば見捨てるし、やはり群れについてこれない幼体こどもは見捨てていくこともある。野生としてはむしろそれが普通だろう。なのにジャックは、さすがに老いた仲間はどうにもできなかったものの、弟妹達や同じ群れで生まれた幼体こどもが遅れそうになると迎えに行って抱いてきたりするのだ。

もちろん、それがいつだって上手くいくとは限らない。サバンナでは最上位の捕食者プレデターの一角でもあるオオカミ竜オオカミも特に幼い幼体こどもの内は逆に捕食される側でもある。

そういう危険な獣はいくつもいる。

その中でも特に危険なのが、猪竜シシと呼ばれる、ブタに似た獣だった。雑食で、オオカミ竜オオカミ幼体こどもも好物である。

さらに、大きさは猪竜シシよりもずっと小さいが、凶暴さで言えばオオカミ竜オオカミに勝るとも劣らぬ、イタチ竜イタチと呼ばれる小型の肉食獣もいる。

このイタチ竜イタチ、いくつかの近似種がいるのだが、その中でも、

ラーテル竜ラーテル

と呼ばれる種は、飛び切り危険な存在だった。ラーテルの名を冠していることからも察せられるだろうが、異常なまでに凶暴で、恐れ知らずなのだ。

それもあって、成体おとなオオカミ竜オオカミが傍にいてもお構いなしに幼体こども達を狙ってきたりもする。

また、このサバンナには他に、土竜モグラと呼ばれる小動物も生息している。その名の通りモグラに似た生態を持ち、土中を主な生活圏にしている。力は、精々、人間の指を食いちぎれる程度でしかないものの、穴掘りが得意で、総延長数百メートルにも及ぶ穴を縦横無尽に掘って、一生のほとんどを穴の中で過ごす。

しかし、何らかの理由で地上に出てくると、オオカミ竜オオカミ幼体こども達にとっては絶好の獲物だった。大きさ的にも狩りの練習相手にはもってこいなのだ。

だからその日も、幼体こども達が、モグラの穴で気配があったことで、出てきたモグラを捕らえようと、一頭が穴を覗き込んだ瞬間、首筋に食らい付かれた。

「ギャヒッ!?」

その幼体こどもは悲鳴を上げて下がったが、成体おとな達が異変に気付き駆け付けようとした時にはすでにその幼体こどもは頸骨を噛み砕かれ、断末魔の痙攣を上げていた。

ラーテル竜ラーテルだった。ラーテル竜ラーテル土竜モグラの穴に潜んでいたのだ。

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