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透明な得体の知れねえ怪物

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ヤベえ直感には素直に従うぜ。俺は弾かれるみてえにして横っ飛びした。それと同時に気配の正体を確かめる。

したらよ、そこにもいやがったんだ。透明な得体の知れねえ怪物がよ。

あやうくまた食われちまうところだったぜ。

そう何度も何度も食われてたまるか。あのクソ退屈な世界に逆戻りなんざ御免こうむるってんだ。

もちろんまた同じところに行けるとは限らねえけどよ。にしたって、てめえらが何なのかもうちょっと見せてもらいてえしな。

こいつらがいるのが分かってっから、密林の中に住んでる獣は川には近付かねぇって感じか? 

そりゃそうだよな。戦おうにも触った瞬間にアウトだってんだから、逃げるしかねえ。それにここまで密林の中じゃ出会わなかったっていうことは、こいつは川からはあんまり離れられないってことだろ。

そういやコーネリアス号も川から二百メートルかくれえしか離れてなかったな。

水はあの蔓がありゃあ困らねえし、わざわざこんなヤベえ奴がいる川になんざ近付く必要もねえか。

川にゃワニ怪人みてえなのもいたけどよ、そいつらは川から離れられねえんだろうな。ヤベえのがいるそこで生きるしかねえわけだ。

で、俺の前に現れたそいつは、アメーバみてえな体の一部をすげえ速さで伸ばしてきて、俺をを捕まえようとしやがった。払いのけることもできねえんなら、逃げるしかねえだろ。前に遭遇した時も武器で何とかしようとした仲間もいたが、まったくどうにもならなかったしな。

銃でいくら撃ってもまるで効いてる様子もなかった。

川から離れりゃ追ってこねえならとにかく逃げるしかねえ。

けど、逃げられんのか?

とか考えてる暇もねえな。少なくともお前には食われてやらねえ。

ダメかもしれねえが、諦めることもしねえ。ひたすらケツまくって逃げるぜ。

だが、そん時、今度はビリッてえ感電したみてえな感覚。

『落雷だ!』

って直感したけどよ、そっちはそれこそ逃げられねえ。自分に落ちねえように祈るしかねえ。

『クソがあっ!!』

そう思ったのと同時に、目の前が真っ白になった。すげえ光で目が眩んだのと同時に、体中をぶん殴られたみてえな衝撃。

『死んだな、これは』

と思っちまったが、そうじゃねえのはすぐ分かった。俺に雷が落ちたんじゃねえ。側撃雷みてえなのもなかった。俺じゃなくてあの、透明な得体の知れねえ怪物に直撃したんだ。

周りにある木に落ちるんじゃなくてそいつに直撃ってえことは、もともと雷を呼び寄せやすい奴だったのかもしれねえなあ。

考えてたって始まらねえか。

とにかくそいつに雷が直撃したってえのだけが分かってることだからな。

俺の方は落雷が作った衝撃波を食らっただけか。

                      
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