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俺も好きにさせてもらうさ

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そんな調子で結局一年くれえしたら、まったく挑み掛かってこねえようになった。てか、そもそも、狩りや縄張りの見回りも自分で勝手に行くようになったんだよなあ。

いよいよ俺のことが必要じゃなくなってきたってえこったろうな。体もさらにでかくなったし。

正直言ってなんか寂しい気もするけどよ、ここで親の方から構ってもらおうとすんのあ、子離れができてねえってことだろ?

やっぱそれはまずいよなあ。

だったら俺も子離れしねえとな。

こうなりゃ俺も好きにさせてもらうさ。だからようやく川に来ることができた。あれからもう何年経ったんだろうなあ。日数なんざ数えてたのは最初だけだったからな。多分ざっと五年~六年くれえは経ってるだろうけどよ。

でもよお、気分的にゃあ何十年って経ってるような気もすっかな。

自分の体をチェックしてる限りにゃあまだ老化抑制処置の効果は残ってるみてえだからな。たぶん、俺の見た目とかは髭を生やしてることと髪が伸びたこと以外はそんなに変わってねえと思う。

思うけどよ。はっきり見た目が変わってくる頃にゃあ、力も衰えてるだろ。そうなるとここじゃ長くは生きられねえ。だから今のうちだろ。いろいろ探らにゃな。

と、急に空が暗くなってきやがった。遠くの方で雷も鳴ってやがる。また雷雨か。

だから今日のところは出直そうかってえ考えたりもしたんだけどよ。何か引っかかるものがあったんだよな。野生の勘ってえことかも知れねえが、『引き返すよりも見届けろ』みてえに頭ん中で囁く奴がいてよ。

雨が降り出して、雷も近付いた時、俺は見ちまった。

「ありゃあ、あん時の……!?」

思わず声に出ちまったよ。忘れもしねえ。俺達がデータヒューマンとやらになっちまう原因を作った<透明な得体の知れない怪物>だ。やっぱりここにもあいつがいたか。

そいつが川岸で、なんかゾウみてえなサイみてえなでけえ獣に覆いかぶさってやがった。そいつに襲われて殺されたってえよりは、元々死体だったヤツを見付けたってえ感じだったな。何しろ他の獣に食われたみてえにだいぶボロボロだったしな。

透明な得体の知れない怪物は、触れた瞬間に溶かすと言うか分解すると言うかな形で吸収しちまうみてえだからな。あっちこっち細かく食うような感じにゃならねえだろ。

俺達が襲われた時にゃじっくり確認する余裕もなかったけどよ、せっかくだからしっかりと見せてもらうぜ。

と思ったらよ、なんかまた背中にゾワッてえもんを感じた。

「クソっ!!」

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